生活保護を受給できる条件として扶養できる人間がいないということがあります。そのため、生活保護を申請すると親族に対して扶養ができるか調査する扶養照会が行われます。

この記事では生活保護申請時に必要な扶養照会について解説しています。これから生活保護を申請しようか検討している方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.扶養照会とは何か?

扶養照会とは生活保護の申請者に対して、親族の中で扶養(支援)できる人がいないか調べるものです。調べるといっても行政が強制的に世帯や個人の情報を調べる訳ではありません。

申請者が生活保護を申請した福祉事務所から親族へ書面で問合せがいきます。そのため、申請者が生活保護を申請しようとしていることが親族に分かってしまうのです。

生活保護の申請者に対する扶養照会は申請者の3親等までが対象になります。

  • 1親等:両親、子(子の配偶者は含まれない)
  • 2親等:祖父母、孫、兄弟姉妹(兄弟姉妹の配偶者は含まれない)
  • 3親等:叔父・叔母、甥・姪
  • (参考)4親等:従兄弟(叔父・叔母の子)

3親等までの親族は「絶対的扶養義務者」になっているため、生活保護の申請があった場合は、基本的に扶養照会の対象になります。

2.扶養照会で問われること

扶養照会の目的は本当に生活保護を受けなくてはいけないか確認するためです。生活保護は最後のセーフティーネットであるため、親族に扶養できる人がいれば扶養の方が優先されます。

そのため、扶養照会では扶養の可能性を問われます。

生活保護を申請する方への支援として一番分かりやすいのが金銭的支援です。申請者は何らかの理由で手元にお金がなく、明日生きるためのお金にも困っていることがあります。そのため、まずは金銭的な支援ができるかが問われます。

次に定期的な訪問や電話連絡の可否を問われるのが一般的です。これは申請者への精神的な支援の可否を問うものです。申請者は生活費が足りなくなった不安にかられて、精神的にも不安定になることがあります。人との関わりの中で精神が安定することは、生活保護から抜け出すため(精力的にお金を稼ぐこと)の助けになるはずです。

しかし、そのためには支援する親族にも一定程度の余裕がないといけません。上記二点の他、家族構成や職業、年収や資産状況など、定量的に支援が可能かという視点で見られることになります。

3.絶対的扶養義務者とは?

絶対的扶養義務者とは、夫婦、直系血族及び兄弟姉妹のことで、民法752条(※1)及び877条1項(※1)で互いに協力して扶助、あるいは扶養する義務があると定められています。同居・別居は関係ありませんので、事情があって別居している夫婦も絶対的扶養義務者に含まれます。

ただし、一定の条件を満たす絶対的扶養義務者には、扶養照会の連絡がいかないことがあります。

  • 70歳以上の高齢者
  • 10年程度、音信不通の者
  • 借金や相続などで著しく関係が悪い者
  • 過去に虐待やDVが問題になった者

70歳以上の高齢者は想定される収入が少なく、そもそも扶養できる確率が低いという理由です。また、著しく関係性が悪い親族は扶養してくれる確率が低いばかりでなく、扶養照会が新たな揉め事の火種になりかねません。

過去に虐待やDVを行った者も同様です。一般的には配偶者が多いかもしれませんが、過去に虐待やDVを受けたことがあり、そこから逃げたあとの生活のために生活保護を申請する場合があります。その場合、扶養照会すると申請者の住所がわかり、再び連れ戻されるリスクがある為、扶養照会の連絡を行わないように対処してもらうことが期待できます。

絶対的扶養義務者以外にも、過去に生活保護申請者に金銭的な援助をした実績がある配偶者の両親(義両親)に扶養紹介の連絡がいくことがあります。3親等以内の親族に扶養義務を負わせることを「相対的扶養義務」といいます。

ただ、配偶者の両親とは直接的な血縁関係はありません。扶養照会が届く場合は、事前に内容を説明した上で「扶養できないならそれで構わない」という意思を伝えましょう。

もし、突然扶養照会の書面が届けば、大切な子ども(配偶者)のことを必要以上に心配させることになりますし、今後の関係継続にも支障をきたす場合もあります。

※1:e-Gov「民法

4.扶養照会に回答義務はある?

結論として、扶養照会に回答義務はありません。届いた扶養照会を無視しても何も罰則がありません(無視すると扶養の意思がないと判断されます)

年収や資産状況などデリケートな個人情報を書き込む部分もあるため、書ける部分だけ書いて返信することも可能です。また、福祉事務所が年収や資産状況を調査することもありませんので、安心してください。

ただし、扶養する意思がない場合には、その旨を記載して返信した方が、より早く福祉事務所に扶養しない意思が伝わるため、スムーズかもしれません。

5.親族は必ず扶養しないといけないのか?

絶対的扶養義務があるとはいえ、必ずしも扶養しなければいけない訳ではありません。扶養することによって現状の生活レベルが維持できない場合(同居する家族の介護費用がかかり支援できないなど)や、自らも生活に困窮している場合や生活保護を受給している場合にも、扶養を拒否することが可能となります。

無理して支援しても持続力がなければ、申請者は再度生活保護を申請することになりかねません。また、生活保護を受給できるようになると単に生活費を受け取れるだけでなく、医療費が無料(健康保険の対象外になり現物支給)になるなど、生活再建に向けた支援を受けられます。生活保護を受給した方がメリットがある場合は、はじめから扶養を拒否した方が良い場合もあります。

また、経済的に扶養できる状況でも、必ずしも扶養しなければいけない訳ではありません。申請者に貸したお金が返ってきていなかったり、家族といざこざがあったりして支援したくない場合もあるでしょう。その際は扶養照会の書面に支援したくない旨を記載して返信すれば問題ありません。

6.生活保護の申請時には嘘をつかない

このように生活保護を申請すると3親等以内の親族に扶養照会の連絡がいきます。しかし、「親族に連絡がいくと迷惑がかかって嫌」「生活に困窮していることを親族に知られるのが嫌」と申請を躊躇したり、親族をすべて明かさない方もいるそうです。根底には「生活保護を受けることは恥ずかしい」という思いがあるのかもしれません。

しかし、親族の情報をすべて明かさず、あるいは嘘をついて生活保護を申請した場合、照会に時間がかかり受給決定が遅れたり、申請そのものが却下される可能性があるため、正確な情報をもとに申請をするようにしましょう。

まとめ
虚偽の申告をしても必ず判明する上、いたずらに受給可否の決定が遅れてしまうだけでメリットは何もないので、正直に申告するようにしましょう。

7.生活保護を申請する目的を考える

生活保護を恥ずかしがることは何もありません。世間の目を気にする時間があれば、生活保護を申請する目的を考えましょう。

あなたは今まで一生懸命働いて納税してきたことでしょう。しかし、何らかの理由により経済的に困窮し、もしかすると今日生きるお金に困っているのかもしれません。

この状況で何より大切なことは「今すぐに」「現金を得る」ことです。日雇いのアルバイトなどに就ければいいかもしれませんが、そうできない事情もあるでしょう。

それなら、今日生きるお金を確実に手に入れられる生活保護を申請するのがベストではないでしょうか。もし、あなたに少しでも「恥ずかしい」と思う気持ちがあるならば、生活再建後にしっかり納税して経済的に困窮している人に還元すれば良いのです。

8.まとめ

生活保護を申請すると3親等以内の親族に扶養照会の書面が届きます。3親等とは、両親・子ども(1親等)、祖父母・孫(2親等)、叔父・叔母・甥・姪(3親等)です。ただし、70歳以上の高齢者や著しく関係性が悪い親族、音信不通の親族や虐待・DVの疑いのある親族は扶養照会の対象外となります。

一般的に3親等以内の親族は絶対的扶養義務者と呼ばれ、民法で互いに協力・扶養することが定められています。しかし、生活状況は人それぞれ。支援したくても経済的に支援できない場合や、経済的に支援できても支援したくない状況もあるでしょう。扶養照会の回答や扶養そのものを強制することはできません。もし、扶養できない(したくない)場合は、その意思を扶養照会の書面に記載しましょう。

日本では「生活保護を受けることは恥ずかしいこと」という風潮があります。しかし、ある有名なフライドチキンフランチャイズの創設者も、ある有名なファンタジー映画の原作者も(居住している国の)生活保護を一時的に受給していた時期があります。決して諦めることなく、生活再建を目指しましょう。

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