生活保護は日本国憲法第二十五条で定められる生存権を保障するため、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行う」とともに「自立を助長する」制度です。

その内容として、これから解説する8種類の扶助があります。

1.生活保護には8種類の扶助がある

生活の側面は最低限の衣食住だけでなく、医療や介護・教育など多岐にわたります。生活保護は日常生活の様々なシーンに応じ、8種類の扶助を支給することで「健康で文化的な生活」を送る支援を行っているのです。

それぞれの項目について、詳細を解説します。

①生活扶助

生活扶助は生活保護制度の根幹をなす扶助で、日常生活を送るため必要な費用を支給するというものです。国が定める最低生活費に収入が満たない場合、不足する分を扶助します。

地域によってかかる生活費は異なるという理屈のもと、生活扶助の基礎となる最低生活費は自治体により基準額が異なります。

最低生活費はⅠ類とⅡ類で構成され、Ⅰ類は世帯員ごとの生活に必要な経費として食費や衣料費などが例として挙げられます。Ⅱ類は世帯全体にかかる経費のことを指し、光熱水費がわかりやすい例となります。

Ⅰ類はひとり当たりの基準額、Ⅱ類は世帯員の人数による基準額となり、東京都新宿区で生活保護を受ける場合は以下の計算例となります。

▼38歳の単身世帯の例

▼52歳・47歳・25歳の3人世帯の例

従来のように単純な足し算でなくなり、計算は少し難しくなりました。

世帯によっては最低生活費が加算されるところもあり、主なものとしては母子世帯等に対するへの母子加算や、障害者がいる世帯に対する障害者加算などがあります。

また世帯員に入院治療中の人がいれば、その世帯員について最低生活費は算定されず、代わりに入院患者日常品費が算定されます。

ほかにも必要に応じて一時扶助という形で支給される項目があるため、詳細は担当ケースワーカーに聞いてみましょう。

また収入認定の考えとして、巷では「給料が全て差し引かれる」と言われることがありますが、就労収入を全て差し引くと意欲の欠落につながる恐れがあるため、一定額が収入認定から控除されます。

生活扶助は日常生活に欠かせない扶助のため、まだまだ紹介しきれない部分がたくさんあります。保護の受給が開始されたら、ケースワーカーと定期的に面談を行うため、疑問が生じる都度質問してみるのがよいでしょう。

②住宅扶助

住宅扶助は住まいに関する費用を扶助するもので、生活扶助と並び保護制度の根幹をなしています。

公営住宅や民間アパートなどに入居する場合、毎月の家賃が一定の基準内で支給されます。具体的な額は自治体によって異なりますが、多くの場合一般的な家賃相場よりも低いといわれています。また共益費や水道代など、家賃以外の経費は扶助の対象外です。

必要に応じ、住宅一時扶助という形で支給されるものもあります。引っ越しをする際必要となる敷金・礼金が支給される場合や、所有を認められる自宅に住んでいる世帯には基準内の住宅修繕費が支給されることがあるため、詳細はケースワーカーに確認しましょう。

③教育扶助

教育扶助は世帯員に小中学生がいる場合、義務教育にかかる費用を扶助するという内容です。費用の内訳には教材費や給食費が含まれ、市区町村の教育委員会が定める額にもとづき福祉事務所が決定しますが、公立学校でかかる費用が基準となります。

また高校への進学自体は認められていますが、高校は義務教育ではないため教育扶助の対象には入りません。しかし自立促進につながるという考えのもと、後述する生業扶助の対象となります。

それでも基準額には上限があるため、学費免除などの制度を上手に活用して、経費を抑えるようにしましょう。

以前は大学進学自体が認められていませんでしたが、現在は大学に通うこともできるようになりました。ただし進学する学生は、同居する場合でも保護対象の世帯員から外れることになるため、奨学金の活用や生活費のためのアルバイトなど資金繰りを十分検討する必要があります。

④医療扶助

医療扶助は被保護世帯の医療費を負担する制度で、原則として医療機関を受診する前に福祉事務所への申請をしなければなりません。医療扶助は保護を受ける人に金銭を給付しない、いわゆる現物給付の形式となります。

医療扶助支給の事務は、ケースワーカーと医療機関との間で行われます。ケースワーカーが通院の事実を知らないと支給ができないため、緊急時などあらかじめ申請ができない場合でも、福祉事務所になるべく早く連絡を入れておきましょう。

また定期通院を必要とする場合、随時の申請を要しないこともあります。詳細はケースバイケースなので、申請時や保護開始後などケースワーカーと面談する際に相談しましょう。

鉄道やバスを使った定期通院をする場合は、医療一時扶助として交通費(通院移送費)の支給を受けられる場合もあります。申請しないと受けられない一時扶助なので、こちらもケースワーカーに相談するようにしたいところです。

生活保護の受給が決定すると、市区町村の国民健康保険を脱退し、医療費の全額を生活保護で補います。就労する世帯員が就労先で社会保険に加入する場合はそのまま継続加入し、自己負担分を扶助する形になります。

医療扶助は生活扶助と併給されることが多く、希に生活扶助を受けず「本人支払額」と呼ばれる自己負担額を医療機関に支払うこともあります。

⑤介護扶助

介護保険の制度は医療保険と似ているところがあり、介護扶助の手続きも医療扶助と似たようなものになると考えてよいでしょう。

介護扶助は一般の介護保険利用者と同様、ケアマネージャーが作成するケアプランをもとに、居宅系や施設介護のサービスを現物支給という形で受けることになります。一方介護保険サービスの中でも福祉用具購入や住宅改修、移送費など、一部は金銭で給付します。

居宅系・施設系の介護サービスは生活保護の指定介護機関に限られますが、ほとんどの場合、介護保険事業所の指定と同時に生活保護介護機関としての指定を受けています。

また医療保険のところでも触れたように、生活保護を受給する世帯は市区町村の国民健康保険から抜けることになります。介護保険の保険者も市区町村のため被保険者には該当せず、介護保険料を納める必要もありません。

⑥出産扶助

疾病を伴わない通常の出産の場合、医療保険が適用されないため一般の人は全額自己負担になります。被保護者に対してはそれに相当する分として、出産扶助が支給されることになります。

しかし原則として、児童福祉法第三十六条で定める助産施設での出産が優先されます。多くの産科医院が助産施設の指定を受けていますが、中には指定を受けない病院もあるため、出産が決まったら早めにケースワーカーへ相談しましょう。

また医療を伴う出産の場合は、出産扶助ではなく医療扶助が適用されます。出産扶助には上限がありますが、医療扶助は原則として自己負担がありません。これは、出産扶助と医療扶助で異なる点です。

⑦葬祭扶助

葬祭扶助は葬祭執行のため必要な経費に対する扶助ですが、支給を受ける機会はそれほど多いわけではありません。

そのため多くの人が誤った理解をしていますが、葬祭扶助は「保護を受けていた方が亡くなった際に支給される扶助」ではなく、「保護を受けている方が葬祭を執り行う場合に支給される扶助」です。保護を受けない人が扶助を受けられる場合も希にありますが、極めて例外的な扱いであることに注意が必要です。

葬祭扶助の基準額は葬祭を執行する必要最低限の費用で、いわゆる直葬相当分と考えておきましょう。ケースワーカーに確認をとれば、具体的な金額を教えてもらえます。

また香典を受けても通常は収入認定されることがありませんが、香典をあてにして高額な葬祭を行っても基準を超える扶助は受けられません。

⑧生業扶助

生業扶助には大きく分けて「生業費」「技能修得費」「就職支度費」の3つがあり、生活保護を受けている人が就労や起業により自立を図る際支給されます。

そのうち就職支度費は、就職が内定した人が就労で必要な衣服や履物などの購入経費を支援するものなので、自立直前の人に支給すると考えてよいでしょう。

技能修得費は就労で必要な技能を修得する経費として、就労訓練などで費用がかかる場合に支給されます。生業費はいわゆる起業資金にあたりますが、2022年度の基準が47,000円、特別基準でも78,000円とわずかな額です。

また生活保護を受けている世帯の世帯員が高校に通う費用のうち、学用品費や教材代、交通費は「高等学校等就学費」として支給されます。高校を卒業することで自立助長を図るという目的で支給されますが、対象とならない経費もあります。

2.保護費支給以外の支援策

8種類の扶助で構成される生活保護は単なる手当ではなく、自立を促進するというもうひとつの大きな目的があります。

生活保護の性質として、緊急避難的に生活保護を支給しつつ早期の自立へ向けた支援に力を入れているという側面もあります。

全ての受給者にあてはまるとはいえませんが、一度保護を受けてしまうと自立の意欲を失い、いわゆる保護慣れしてしまうこともあり得ます。そのため「働けるように努力する」「病気の治療をしっかり行う」など、自分ができる範囲で自立を目指すことが求められます。

特に就労へ向けた支援策は多くの自治体のケースワーカーも積極的に提案しており、それぞれの福祉事務所には専門の就労支援員が様々な施策の活用をサポートします。

主なものとしては、公共職業訓練や求職者支援訓練等の職業訓練があり、就労に必要なスキル取得を支援しています。またカウンセリング等による就労意欲の喚起やハローワークとの連携による就労支援、前述した生業扶助の技能修得費支給なども併せて行うことで、多方面から就労に向けた支援を行っています。

3.生活保護を受けながら自立を目指そう!

生活保護は「最低生活を保障するとともに自立を促す」という目的で実施される、日本の社会保障において極めて重要な制度です。保障する生活の内容に応じた8種類の扶助があり、世帯ごとに異なる事情に最適な支援を行っています。

福祉事務所に生活保護の申請をするときは、今生き抜くことを考えるだけで精一杯かもしれません。しかしこの制度はゆくゆくは自立した生活が送れるようにサポートするためのものなのだという、生活保護の性質も覚えておきたいところです。

自立といっても、必ず生活保護を脱却しなければいけないということではありません。社会復帰するために自分ができることを行う、病気を治す努力をする、扶養義務者との交流を維持するなど、世帯の数だけ自立の形があります。

生活保護を受けることで生活が保障されるという安心感を持ち、より自分らしく生きるための努力を忘れないようにしましょう。

4.生活保護の相談・支援はリライフネットを活用しよう

生活保護における8種類の扶助はどのような場合に支給されるのかという判断が難しく、かといってケースワーカーに相談・申請をしなければもらうことができません。しかし、ケースワーカーに直接相談することをためらう場合もあるでしょう。そんなときは、リライフネットの利用を検討してはいかがでしょうか。

リライフネットでは生活困窮者に対する総合的なサポートを行っており、様々な関係機関と連携した総合的なサービスを紹介することも可能です。またホームページを閲覧して生じた疑問点も、サイトから無料で質問できます。

まとめ
ケースワーカーへ直接尋ねにくい質問もリライフネットへどうぞ!