生活保護は日本国憲法で保障される「生存権」を実現させるため、日本の社会保障の根幹をなす重要な制度です。また「自立の促進」というもうひとつの目的があり、受給中は様々な義務や制約も生じます。今回はクレジットカードに焦点を当て、利用の可否について詳しく解説します。
1.生活保護を受けている人でもクレジットカードを持つことができる?
生活保護を受けている人でも。理屈上はクレジットカードを持つことは可能ですが、実際には新規にクレジットカードを発行してもらえることはほぼ期待できません。
生活保護の制度上は、根拠となる生活保護法でも運用通知でも明確な規定がありません。そのため、保有することが禁止されていないと解釈することができます。
クレジットカードの審査にあたっては、生活保護受給しているという情報が伝わるわけではありません。申請する人の資産や収入の状況を総合的にみて、カード発行の可否を決定します。
生活保護の制度は「最低生活費よりも収入が少ない場合、不足分を支給する」という仕組みです。そのため生活保護を受けている人は、無収入か収入が少ない状態です。
クレジットカードはカード会員の収入状況から限度枠内で立て替え払いとするという内容のため、収入状況・特に安定した支払能力があるかを重点的に審査します。
生活保護を受けている人は「収入が不安定」とみなされることが多く、カード会社が立て替えた費用の支払能力に欠けていると判断される可能性が高いです。
したがって生活保護を受けている人は、新規にクレジットカードを発行してもらうことが事実上不可能といえるのです。
2.生活保護を受けている人がすでにクレジットカードを持っていたらどうなる?
生活保護を受け始めた人がすでにクレジットカードを持っていても、直ちにカードが使えなくなるということはありません。
先に述べたとおり、クレジットカード会社には「生活保護を受けている」という情報が伝わりません。そのため基本的には、クレジットカードを引き続き使用することができます。
ただし半永久的に使えるわけではない、ということは頭に入れておく必要があります。
カード利用が停止されるタイミングとしては、カード利用料の支払いが滞ったときやカード更新の審査に通らなかったときがあります。
また、支払いができなくなった額は滞納扱いとなり、その期間が長くなると「支払能力なし」とみなされます。会社によっては強制解約に踏み切ることがあり、その情報が「信用情報機関」に伝わることで他のカード会社や金融機関と共有されます。
クレジットカードは、数年に1回「カードの更新」が必要になります。更新するタイミングで、カード会社は基本情報や信用情報を確認し、支払能力の有無を改めて審査します。
この時点で生活保護を受けていると「支払能力がない」と判断されることがあり、その場合は更新カードを発行してもらうことができなくなります。
3.生活保護を受けている人でもクレジットカードの分割払いは可能?
クレジットカードの支払い方法としては、一括で支払う翌月払いに加え、毎月の負担をおさえることができるリボ払いや分割払いなどもあります。
生活保護を受けている人がクレジットカードを利用する場合は、原則としてリボ払いも分割払いも認められません。
リボ払いも分割払いも、期間をまたいで少しずつ返済するという支払い方法です。厳密にはローンを返済しているのと同じ理屈になるので、言い換えると、借金を返済しているということとなります。
生活保護を受けている人は借金をすることもその返済も認められておらず、借りた分や返済する分「資力に余裕がある」という判断から収入認定されることになります。
同時に返済しないよう指導され、指導にしたがわないと最悪保護の停廃止処分を受ける可能性も出てきます。
生活保護を受けている人には生活上の義務が課せられており、そのひとつに「支出の節約」があります。具体的には生活保護法第六十条で、「被保護者は、常に…収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、…努めなければならない」と定められています。
リボ払いや分割払いは手数料がかかるため、手数料を無駄な経費と判断されることもあります。この点も指導の対象や、したがわない場合の処分理由になるので注意しましょう。
4.生活保護を受けている人がクレジットカードを申請する際に気をつけるべきポイント
生活保護を受けている人でも、収入があればクレジットカードの審査をパスできる可能性があります。どうしてもクレジットカードを利用しなければならない事情がある人は、カード申請の際以下のポイントを頭に入れておくことをおすすめします。
①あらかじめケースワーカーに相談しておく
生活保護受給者のカード利用は、申請先の福祉事務所が可否を判断します。一律の判断基準はありませんが、カード利用に正当な理由があり、本人が利用状況や生計全体を把握できる場合は認められる可能性があります。
ただしあらかじめカードを利用する旨伝えておかないと、割引やポイント還元の事実が判明した際収入認定される可能性があります。同時に申告義務違反として、保護の停廃止処分を受けることにつながることにもなりかねません。
安心して生活保護を受けるためにはケースワーカーにはあらゆる事実を伝えておく必要があり、クレジットカードの利用についても事前に相談しておきましょう。
②職業欄の記載に注意する
クレジットカードの審査は支払能力の有無が大きなポイントとなるため、全く収入がない人は審査に通る可能性がほとんどありません。そのため無職の人がクレジットカードを持つのは、事実上不可能です。
一方ある程度安定した収入がある場合は、生活保護を受けていても支払能力が認められる可能性もあります。あえて保護を受けている旨を申告しなければ、カード会社は保護を受けているという情報を得ることはありません。
就労収入がある人であれは、「自由業」「アルバイト」など就労実態を記載すれば審査に通りやすくなるでしょう。もちろんカードを申し込む前には、ケースワーカーに相談し許可を得ておく必要があります。
③キャッシング枠は設定しない
キャッシング枠があるカードは「借金ができるクレジットカード」ということになるので、キャッシングの利用は新たな借金を抱えるのと同じです。
そのため生活保護の受給中にカード発行を申請する場合は、キャッシング枠をゼロにしお金を借りられないようにしておきましょう。
また既に説明したように、クレジットカードのリボ払いや分割払いは借金と判断される可能性が非常に高いです。これらは収入認定されるだけでなく、未申告のままでは不正受給とみなされ、費用徴収や保護の停廃止処分を受けるおそれがあります。
④クレジットカードは利用目的が制限される
クレジットカードの利用が認められても、好きなものを自由に購入できるわけではありません。最低生活を保障するという生活保護の趣旨にもとづき、生活必需品の購入や公共料金の支払いでのみカード利用が認められると考えておきましょう。
趣味・娯楽用の商品購入でクレジットカードを使うことは御法度で、資産価値があり現金化できるものの購入は論外といえます。
5.まとめ
今回は生活保護とクレジットカードについて説明してきましたが、生活保護を受けている人がクレジットカードを利用するには様々な条件をクリアしなければなりません。そのためカード払いにしか対応しない支払い以外は、なるべく現金主義の生活を送るのが無難かもしれません。
カード利用だけでなく、生活保護を受けている人には多くの義務も課せられます。きちんとした生活保障を受け自立への道を探るためには、様々な義務もしっかり理解しておくことが望まれます。
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