1.生活保護を受けつつ大学進学はできない
生活保護は、国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることを保障する重要な制度です。そのため従来は、大学はおろか高校進学でさえも生活保護の対象外でした。
その後高等学校については、生業扶助の一部として高校学校等就学費が追加され、進学が認められるようになりましたが、大学を含めた高等教育機関への進学はまだ認められていません。
しかし大学進学率は増加傾向にあり、文部科学省が実施した令和3年度学校基本調査によれば、短大や専門学校なども含めた高等教育機関高等への進学率は、83.8%と過去最高を記録しています。
今後高等学校等就学費制度のように、社会情勢に応じた生活保護制度改正がなされるか、今後の動向に注目が集まります。
2.生活保護を受けているが大学進学したい高校生は世帯分離をすべし
生活保護制度における原則のひとつに、生活保護法第十条で定める「世帯単位の原則」があります。
通常であれば特段の事情がない限り生計同一として家族全員が保護の対象になりますが、生活保護を受けている家庭の世帯員は大学進学が認められていません。そのため世帯員のひとりが大学へ進学を希望する場合は、その人のみ世帯分離されるという扱いになります。
進学する学生以外の世帯員で改めて要否判定を行い、要保護状態にあると判定されれば引き続き保護を受けることができます。
家族と同居しながら通学することは認められていますが、生活保護の対象外となるため、進学する人の生活費は支給されません。学校に支払う学費はもちろん、生活費も全て自分でやりくりしなければなりません。
アルバイトをしてもバイト代だけでは十分でないこともあるので、奨学金や他の減免制度を活用しましょう。
例えば20歳になったときの国民年金保険料があり、一定所得以下の学生であれば「学生納付特例制度」を利用することで在学中の保険料納付を猶予してもらうことができます。
奨学金は、独立行政法人日本学生支援機構の奨学金が広く知られているところですが、お金を借りる貸付型だけでなく、返済不要の給付型奨学金をもらえる場合もあります。特に給付型奨学金の対象となれば、授業料や入学金の減免を受けることができます。
なお世帯分離の条件としては、「世帯分離をしない場合、本来の世帯全体が要保護状態である」というものがあります。進学を理由とする世帯分離については、「対象学生の世帯分離を解除することで世帯全体の保護を廃止する処分が不当である」という判決事例も出ています(2022年10月熊本地裁)。直ちに制度が改正されるわけではありませんが、今後の動向が期待されるところです。
3.生活保護世帯から世帯分離した後は一時金支給の申請をしよう
現時点で、大学進学する世帯員は被保護世帯から分離されるため、生活保護を受けることはできなくなります。一方全世帯の進学率と比べると、被保護世帯の子どもの大学等進学率が低いというのが現状で、自立促進という生活保護の目的からは離れてしまいます。
また生活保護を受けながら進学費用を蓄えておくことは認められておらず、進学時に必要となる様々な経費をあらかじめ用意することが極めて困難という事情があるのも事実です。
大学等に進学する世帯員を保護本体の対象にすることはできないものの、進学を支援することで貧困の連鎖を断ち切り、将来的な自立につなげることを目的として、2018年に「進学準備給付金」の制度がスタートしました。
自宅を離れて進学する場合は30万円が、自宅から通学する場合は10万円が一時金として支給されます。一般入試で進学する人の多くは、合格発表から入学手続き、自宅外から通う場合の引っ越しなど、一連の手続きを短期間で行う必要があります。
迅速に給付を受けるためには、ケースワーカーへの申請も早急に行わなければなりません。合格発表後速やかに一時金を受け取れるよう、可能であれば受験についてあらかじめ相談しておくことをおすすめします。
4.生活保護から世帯分離した高校生が高額な大学費用を無償化する方法はあるか?
大学等に進学する際、卒業まで数千万円かかる私立の医療系大学をはじめ、多くの大学や専門学校では高校の何倍も学費がかかります。大学によっては入学金や学費免除の制度がある場合もありますが、ごく一部の人しか制度を利用することができません。
高額な学費をやりくりする方法として最も一般的なのは、日本学生支援機構の貸付型奨学金を借りるというものです。しかし卒業後の返済難は深刻な社会問題と化しているため、他の制度も積極的に活用したいところです。
そんな中経済的に厳しい家庭を支援するという目的のもと、2020年4月から高等教育の修学支援新制度が始まりました。進学の意欲が高ければ学費を実質無償化することで、家庭の経済状況を気にせず学びを深めることが可能となります。
日本学生支援機構の奨学金には、従来から返済不要の給付型奨学金がありましたが、新制度ではその内容が拡充されました。具体的には、条件を満たせば奨学金の給付を受けられるとともに、大学や専門学校の入学金や授業料の全額または大半が免除されるというものです。
世帯の対象には被保護世帯も含まれており、生活保護の制度上は世帯分離扱いとなっても奨学金を受ける権利があります。直接的に生活を保障するものではありませんが、学費の負担が大幅に軽減されるというのは、これまでと比べれば格段に進学する環境が整っているともいえるでしょう。
5.厚生労働省は大学に進学したい生活保護世帯の高校生にどう伝えているか?
文部科学省で定める義務教育は小中学校に限られていますが、進学率の上昇を背景に、高校への進学は制度上認められるようになりました。
高校卒業後は大学進学だけでなく、短大及び専門学校への進学や就職など、選択の幅がいっそう広がります。国としては経済的事情を理由に進学を諦めることがないよう、奨学金制度の充実をはじめ学びの機会を確保するための施策を展開しています。
しかし進学だけにとらわれず就職活動で必要な情報もまんべんなく提供しており、幅広い視点から進路を決定できるよう配慮がなされています。
「国や自治体の歳出を減らしたいから大学進学を認めない」ととらえる人も少なくないようですが、むしろ「偏った進路選択にならないようあらゆる選択肢を丁寧に説明している」ととらえる方がよいのではないでしょうか。
厚生労働省では以下のようなパンフレットを作成し、進路選択の参考として公表しています。公的機関の見解に偏見を持たず、一度俯瞰の目で自分の将来を考えてみることをおすすめします。
6.被保護世帯の人が進学したい場合はリライフネットに相談
生活保護を受けている世帯の家族が大学等へ進学したい場合、現状では保護の対象から外れることになり、自立した生活と学業の両立が求められます。
生活保護の中でも進学準備給付金制度が導入され、少しでも経済的負担を抑えるための対策がなされています。しかし今のところ、世帯分離された学生の生活費をサポートする制度はまだ十分ではありません。
リライフネットは生活困窮者への総合的な支援を行っており、様々な業種とのネットワークを活かした幅広いサポートも可能です。進学しながら保護を受けることはできないものの、リライフネットに相談すれば自立につながるヒントが見つかるかもしれません。
住まい確保のサポート体制も充実しているので、進学と自立した生活を両立させるためリライフネットに相談してみる、というのも一考の余地があるのではないでしょうか。