
福祉事務所から「現在の住居は適切ではないため転居してください」と言われ、どう対処すべきか困っている方も多いでしょう。転居指導は生活保護受給者にとって大きな負担となりますが、実際にはその指導が適切でない場合もあります。
リライフネットでも、転居指導に関する相談を数多く受けてきました。福祉事務所の指導が適切かどうかを見極め、必要に応じて交渉することで、現在の住居を維持できたケースもあります。転居指導を受けた場合の対処法について、実践的な観点から解説していきます。
1.転居指導の根拠を正しく理解する

①転居指導が出される法的根拠
福祉事務所が転居を促す「転居指導」は、主に家賃が厚生労働省の定める住宅扶助基準を超えている場合に行われます。ただし、基準超過=即転居とは限りません。障害や病状等の事情で基準を上乗せして認める特別基準の適用が可能か、慎重に検討されるべきものだからです。※1
指導は機械的であってはならず、転居で生活や健康が著しく悪化する恐れがある場合は、その妥当性が問われます。もし指導を受けた際は、単なる「金額超過」という理由だけでなく、個別の事情(特別基準の可否等)がどう考慮されたのか、福祉事務所へ具体的な説明を求めることが推奨されます。
②住宅扶助基準額の確認方法
転居指導への対処として、現在支給されている住宅扶助額と、自治体が定める上限額を正確に把握する必要があります。この基準額は、お住まいの地域区分や世帯人数によって細かく設定されているため、ご自身の状況に照らして正確な数字を確認することが大切です。
福祉事務所に対しては、自身の世帯に適用される基準額について、書面等での説明を求めることが可能です。口頭のみでなく根拠を確認することで、指導の妥当性を客観的に判断する材料となります。
また、住宅扶助は原則として「純粋な家賃」を対象とするものであり、管理費や共益費は原則として住宅扶助に含まれず、生活扶助(食費や光熱費などの生活費)から支払う仕組みとなっています。一方で、契約時の敷金といった一時金については、一定の範囲内で住宅扶助の対象として認められる場合があります。家賃以外の費用の内訳についても、あわせて確認しておくと安心です。
詳しくは「住宅扶助とは?生活保護で安心して住まいを確保するための支援制度」で解説しています。
③特別基準適用の可能性を検討する
家賃が上限を超えていても、特別基準が適用されれば、現在の住居を維持できる可能性があります。
例えば、障害により設備変更が難しい場合や、高齢で転居の負担が大きすぎる場合、長年の居住で地域との結びつきが強い場合などが挙げられます。こうした事情がある際は、福祉事務所へ事情を申し立て、適用の検討を求めることが可能です。判断には、医師の意見書など客観的な根拠資料を準備しておくことが重要となります。
※1出典:厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」参照:2025.04.01
2.福祉事務所との効果的な交渉術

①交渉前の準備と資料収集
福祉事務所との話し合いを円滑に進めるには、事前の準備が重要です。まずは転居指導の理由について書面での説明を求め、指導内容に疑問がある場合は、具体的にどの点に疑問があるのかを整理しておきましょう。
準備すべき資料には、現在の賃貸借契約書や家賃の明細が含まれます。さらに、個別に家賃上限を認める特別基準の適用を検討してもらう場合は、医師の診断書や介護保険の認定結果がわかる書類、地域社会との関わりを示す資料なども揃えておくことが推奨されます。
実際にリライフネットで支援した事例では、地域のボランティア実績や近隣との良好な関係を客観的な資料で示したことで、福祉事務所側が地域との結びつきを考慮し、特別基準が認められたケースもあります。感情論ではなく、具体的な事実を示す資料を準備することが、納得感のある合意に繋がります。
②交渉時の基本的な心構え
福祉事務所との話し合いでは、冷静な対応を保つことが大切です。担当者も規定に基づいて業務を行っているため、感情的な衝突は避け、なぜ現在の住居からの転居が困難なのかという理由を、客観的な事実に基づいて伝えるよう心がけましょう。
話し合いの際は、内容や担当者の発言、今後の進め方について詳細に記録を残しておくことが推奨されます。また、自身だけで対応することに不安がある場合は、信頼できる支援者に同席を依頼することも検討してください。
なお、福祉事務所の判断に納得がいかない場合、行政不服審査法に基づく審査請求を行う権利が認められています。一方的に指導を受け入れるだけでなく、建設的な対話を通じて、双方が合意できる解決策を模索していく姿勢が重要となります。
③代替案の提示と合意形成
転居指導に対し、単に拒否するだけでなく代替案を提示することも一つの方法です。家主との家賃減額交渉や、より安価な住居への転居時期の調整など、複数の選択肢を検討してみましょう。
また、家賃の超過分を生活扶助から自己負担することで、現在の住居に留まりたいと希望される方もいます。ただし、保護費の使途は自立のために適切である必要があるため、この方法は必ず認められるわけではありません。福祉事務所との個別の協議が不可欠となります。
リライフネットが支援した事例でも、住宅扶助基準をわずかに上回る住居において、超過分を自身の生活費から充てることを提案し、自治体との協議の結果、転居を回避できたケースがあります。感情的な対立ではなく、具体的な計画を示しながら、双方が納得できる着地点を模索していく姿勢が大切です。
3.転居が必要な場合の住居確保戦略

①住宅扶助基準内の物件探し
転居が避けられない場合は、お住まいの地域の住宅扶助基準(家賃の上限額)に適合する住居を探す必要があります。生活保護受給中の方の住まい探しに詳しい不動産会社や、居住支援法人を活用することで、スムーズに物件を探せる可能性が高まります。
物件探しの際は、毎月の家賃が基準額内に収まっているかを確認しましょう。なお、管理費や共益費は原則として家賃(住宅扶助)には含まれず、生活費から支払う点に注意が必要です。一方で、契約時の敷金や仲介手数料といった初期費用は、家賃とは別枠の基準内で支給される場合があります。
生活保護受給中であることを理由に入居を断られるケースも少なくないため、最初から受け入れ実績のある物件に絞って探すのが現実的です。居住支援法人などの専門機関を通じて探すことで、審査に関する不安を軽減し、断られるリスクを抑えることができます。
詳しくは「ブラックリストでも家を借りたい!審査に通る条件と不動産会社の選び方」で解説しています。
②引越し費用の確保と申請
福祉事務所の転居指導に従って住み替える場合、引越しに要する費用が一時の扶助として認められる可能性があります。転居が決まった段階で早めに担当のケースワーカーへ相談し、支給の要件を確認しておきましょう。
この費用の支給には各自治体ごとに目安となる上限額があり、一般的には複数の引越し業者から見積もりを取得し、その中から最も安価な業者を選ぶよう指導されるケースが多く見られます。見積もりを取る際は、福祉事務所が提示する条件を事前に把握しておくことが大切です。
また、引越しの日程についても慎重な調整が求められます。新旧居の家賃が重複して発生する「二重家賃」の状態は、原則として認められない場合が多いため、住宅扶助の支給タイミングと入居日を合わせる必要があります。手続きに漏れがないよう、担当者と密に連絡を取り合いながら進めることが推奨されます。
③転居後の生活再建
新居への転居完了後は、新しい環境での生活基盤を整えることが大切です。住所変更に伴う諸手続きに漏れがあると、生活保護の受給事務に支障をきたす恐れがあるため注意しましょう。自治体への転入届の提出はもちろん、年金受給者の方は年金事務所への住所変更、継続的な通院が必要な方は医療機関への連絡など、必要な手続きを整理しておくことが推奨されます。
新しい地域での生活を円滑に始めるために、地域の支援機関について情報を集めておくことも有効です。地域包括支援センターや社会福祉協議会など、相談先を把握しておくことで、困りごとが生じた際に適切なサポートを受けやすくなります。
もし転居によって通院先が変わる場合は、医療扶助の継続手続きが必要です。新しい住所を管轄する福祉事務所へ医療券の発行を依頼するとともに、必要に応じて前の医療機関から紹介状をもらっておくなど、治療を途切れさせないための準備が大切となります。
4.転居指導を受けやすい状況と予防策

①転居指導のリスクが高い住居の特徴
福祉事務所からの転居指導は、主に家賃額が住宅扶助基準を大幅に上回っている場合に対象となりやすい傾向があります。特に、都心部や新築物件などで家賃設定が高額な住居に住んでいる場合は、基準超過による指導の可能性を考慮しておく必要があるでしょう。
また、同じ地域の家賃相場と比較して、現在の家賃が明らかに高額である場合も、指導の妥当性を検討される要因となることがあります。福祉事務所では、近隣の類似した物件の家賃相場との比較も行うため、相場よりも著しく高い家賃の物件に住み続けている場合は、注意深く状況を確認することが推奨されます。
住居を選択する際は、家賃が住宅扶助基準内であることはもちろん、将来的に生活保護を受給する可能性がある場合や転居を検討する際には、周辺相場と照らして適正な範囲かどうかもあわせて検討することが大切です。生活保護の受給開始時や住み替えのタイミングでは、福祉事務所の担当者と相談しながら、長期的に住み続けられる住居を選択することが、予期せぬ転居指導を避ける一つの手立てとなります。
②住宅扶助基準の変更への対応
住宅扶助基準は定期的に見直されます。基準が引き下げられた場合、今の住居が上限を超えてしまう可能性があるため、制度変更の通知には関心を持つことが大切です。
もし基準を上回ることになっても、直ちに転居を強制されることは考えにくいとされています。生活への影響を抑えるため、一定期間は旧基準を認める経過措置が設けられる場合が多いからです。まずは福祉事務所へ経過措置の期間などを確認し、落ち着いて今後の対応を相談することが推奨されます。
③予防的な住居選択のポイント
転居指導を避けるためには、住み替えの段階から住宅扶助基準に余裕を持たせた住居を選択することが、一つの有効な対策となります。例えば、基準額の8割程度を目安に物件を探すことで、将来的な基準改定などの変化にも対応しやすくなると考えられています。
また、家賃以外の維持費についても事前に把握しておくことが大切です。管理費や共益費、駐車場代などは、原則として住宅扶助の対象外であり、生活扶助から捻出することになります。これらを合わせた総額が、無理なく支払える範囲内であるかを検討しましょう。
リライフネットで支援した事例では、あえて家賃上限よりも手頃な物件を選択したことで、日々の家計にゆとりが生まれ、結果として生活の安定に繋がったケースもあります。自身の状況に見合った適切な住居選びは、長期的な安心感に寄与すると言えるでしょう。
詳しくは「住宅扶助の基準額はいくら?基本から対象となる目安を解説」で解説しています。
転居指導を受けた際の対処法は、現在の住まいを維持するための交渉から、納得のいく形での住み替えまで、ご自身の状況によって複数の選択肢が考えられます。それぞれの方法には、期待できる効果(メリット)と、事前に把握しておくべき留意点があります。以下の表に、これまでの内容を整理してまとめました。

5.専門機関との連携と支援の活用

①居住支援法人の活用
転居指導への対応にあたっては、居住支援法人の活用を検討してみましょう。これらの法人は生活保護受給中の方の住居問題についても豊富な知見を持っており、解決に向けた公的なサポートが期待できます。
居住支援法人では、物件探しから契約手続きの補助、さらには転居後の生活支援まで包括的なサポートを行っています。また、福祉事務所との円滑な合意形成に向けた相談やアドバイスを受けることも可能であり、一人で抱え込みがちな問題を専門的な視点から整理する助けとなります。
リライフネットにおいても、転居指導を受けた生活保護受給中の方への支援を数多く手がけてきました。福祉事務所との状況整理から、ご希望に沿った新居の確保まで、一人ひとりの状況に合わせたきめ細かいサポートを通じて、住まいの安定を形にしています。
②法的支援制度の利用
転居指導の妥当性に疑問がある場合や、福祉事務所との話し合いが円滑に進まない際は、法的支援制度の活用も一つの選択肢です。法テラスでは、生活保護受給中の方を対象とした無料の法律相談や弁護士の紹介を行っており、専門的な知見に基づく助言を求めることができます。
もし、福祉事務所の決定を再審査する審査請求を行う場合には、弁護士等の専門家の協力を得ることも検討できます。その際、法テラスの「民事法律扶助」制度を利用できれば、弁護士費用等の支払いが猶予されたり、最終的に免除されたりする場合があるため、経済的な負担を抑えつつ手続きを進められる可能性があります。
ただし、法的な手続きには相応の時間を要することが一般的です。そのため、並行して現実的な住居確保の準備も進めておくことが、生活の安定を早めることに繋がります。専門的な法的助言と具体的な住まい探しを両立させることが、納得のいく解決を目指す上でのポイントとなります。
詳しくは「家賃が払えないと追い出される?退去を防ぐための支援制度と相談先を解説」で解説しています。
③地域の支援ネットワーク
福祉事務所からの転居指導に直面した際は、地域の支援ネットワークを頼ることも一つの方法です。地域には社会福祉協議会や、福祉の増進に努めるボランティアである民生委員・児童委員、生活支援を行うNPO法人など、様々な相談先が存在します。
これらの機関では、住居の確保だけでなく、家計の管理や見守りといった生活全般に関する相談に対応している場合があります。転居に伴う生活環境の変化に不安を感じる際も、こうした地域の窓口を把握しておくことで、必要なサポートを受けやすくなることが期待されます。
また、同じような状況を経験した方との情報交換が支えになることもあります。支援団体等を通じて実体験に基づく工夫を知ることは、心理的な安心感だけでなく、問題解決のためのヒントを得ることにも繋がるでしょう。一人で悩みを抱え込まず、周囲にある多様な支援の輪を活用することが、納得のいく形での生活再建への一歩となります。
6.よくある質問

①転居指導を無視したらどうなりますか?
転居指導を無視し続けると、住宅扶助が基準額まで減額される場合があります。また、指導に従わない理由によっては生活保護の停止や廃止の対象となる可能性もあるため、必ず福祉事務所と話し合いを行うことが重要です。
②転居までの期限はどのくらいですか?
転居期限は通常3ヶ月から6ヶ月程度の猶予期間が設けられる場合が多いですが、個別の事情により異なります。期限について福祉事務所と相談することで、期限の延長が認められる可能性があります。
③家族が増えた場合の住宅扶助基準はどう変わりますか?
世帯人員が増加した場合、住宅扶助基準も上がるため現在の住居を継続できる可能性があります。出産や同居開始などで世帯構成に変化があった場合は、速やかに福祉事務所に届け出て基準の見直しを申請しましょう。
④特別基準が認められやすいケースはありますか?
身体障害による住環境への配慮が必要な場合や高齢により転居の身体的負担が大きい場合、長期居住により地域との結びつきが強い場合などは特別基準が認められやすい傾向にあります。医師の意見書などの客観的な根拠を準備することが重要です。
⑤転居費用は全額支給されますか?
福祉事務所の指導による転居の場合、引越し費用や敷金等の初期費用が住宅扶助から支給される場合がありますが、上限額が設定されています。事前に支給対象となる費用の範囲と上限額について確認しておくことが大切です。
⑥転居指導に不服がある場合の申し立て方法は?
行政不服審査法に基づき、都道府県知事等に対して審査請求を行うことができます。期限は原則として、指導(決定)があったことを知った日の翌日から「3ヶ月以内」です。手続きが複雑なため、早めに法テラスなどの専門機関へ相談することを推奨します。
⑦転居先が見つからない場合はどうすればいいですか?
適切な転居先が見つからない場合は、福祉事務所に相談して期限の延長を申請できます。また、居住支援法人や生活保護に理解のある不動産会社の紹介を受けることで、物件確保の可能性を高めることができます。
7.まとめ

転居指導は、生活の基盤を揺るがす大きな問題です。しかし、ここまでご紹介したように住宅扶助の特別基準の確認や、福祉事務所との誠実な対話、そして専門機関の活用によって、納得のいく解決策が見つかる可能性は十分にあります。
大切なのは、制度を正しく理解し、一人で悩まずに周囲のサポートを求めることです。住まいの安定は、これからの生活を立て直すための第一歩となります。
この記事では、転居指導に関する対処法から住居確保までの実践的な解決策をご紹介しました。「転居指導への不服申し立て」「適切な住居の確保」「福祉事務所との交渉」などの場合には、リライフネットへご相談ください。
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