
生活保護の申請時に行われる扶養照会によって、家族から援助を断られ、不安を感じている方もいるのではないでしょうか。制度上必要な手続きとはいえ、家族との関係が悪化したり、精神的な負担を抱えたりすることは少なくありません。しかし、このような状況でも、適切な対応を知ることで生活の安定につなげていくことは可能です。
扶養照会は生活保護制度の中で行われる手続きの一つですが、家族に援助を強制するものではありません。大切なのは、照会後の状況をどのように受け止め、今後の生活や家族との関係にどう向き合っていくかです。この記事では、家族から援助を断られた後に知っておきたい考え方と、具体的な対処法について解説します。
1.扶養照会で援助を断られる理由と現実

①家族が援助を拒否する背景
扶養照会に対して家族が援助を断る理由はさまざまです。経済的な余裕がないことはもちろんですが、生活保護に対する偏見や世間体を気にする気持ちが大きく影響することもあります。特に、長年疎遠だった親族に突然福祉事務所から連絡が来ることで、驚きや困惑から拒否反応を示すケースが目立ちます。
リライフネットが受けた相談事例として、15年間連絡を取っていなかった兄に対して扶養照会が行われた結果、「急に福祉事務所から連絡が来て驚いた。自分の家庭もあるため援助は難しい」と伝えられた40代男性のケースがあります。
本人は当初、家族に負担をかけてしまったのではないかと深く落ち込んでいましたが、扶養照会は制度上の手続きであり、家族が援助を断ること自体に問題があるわけではないことを説明することで、徐々に状況を整理して受け止められるようになりました。
②扶養義務の法的な位置づけ
民法第877条では扶養義務が定められていますが、これは無制限に課されるものではなく、扶養義務者の生活に支障がない範囲で履行されるべきものとされています。したがって、扶養義務者自身が生活に困窮している場合や経済的余裕がない場合には、無理に援助を行う義務はありません。また、生活保護の運用においても、福祉事務所が扶養義務者に対して援助を強制することはできず、あくまで任意の協力を求めるにとどまります。※1
さらに、扶養照会は単なる「照会」であり、援助を強制するものではありません。家族が「援助できない」と回答した場合、それで手続きは完了し、生活保護の受給には影響しません。この点を正しく理解することで、不要な自責の念から解放される方も多くいらっしゃいます。
③照会後の家族関係への影響
扶養照会をきっかけに家族関係が悪化するケースは確かに存在します。しかし、これは制度の運用上起こり得るものであり、必ずしも受給者本人の責任とは言えません。一方で、このような状況を通じて家族との関係を見つめ直し、結果的に新たな関係性が築かれるケースもあります。
例えば、扶養照会をきっかけに家族との関係が一時的に悪化したものの、その後、時間をかけて自身の状況や制度について説明を続けることで、理解が深まり関係が改善したという相談事例も報告されています。
※1出典:厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について 」参照:2021.2.26
2.援助を断られた直後にすべき対応

①福祉事務所への状況報告と相談
家族から援助を断られた場合は、福祉事務所の担当ケースワーカーに状況を共有・相談することが有効です。扶養照会の結果は記録に残されますが、その後の家族関係の変化や心理的な影響についても伝えることで、状況に応じた支援につながる可能性があります。
具体的には、家族から言われた内容や現在の心境、今後の不安などを整理して伝えるとよいでしょう。ケースワーカーは、必要に応じて関係機関の案内や生活の安定に向けた支援策について情報提供を行うことがあります。また、状況の整理や今後の対応について一緒に考えてもらうことも可能です。
※支援内容や対応は自治体や個別の状況によって異なります。
②生活保護費の見直しと追加支援の検討
家族からの援助が得られない場合や生活状況に変化があった場合は、現在の保護内容で生活を維持できるかを改めて確認し、福祉事務所に相談することが大切です。これまで家族の援助で補っていた支出がある場合は、その事情を伝えることで、利用できる扶助や支援制度の案内を受けられることがあります。
例えば、医療扶助や、必要と認められる場合の一時扶助などが活用できることがあります。また、就労が可能であれば、就労支援を受けながら将来的な自立に向けた準備を進めることも選択肢の一つです。
詳しくは「うつ病で収入が途絶えたら?働けないときでも利用できる給付金・支援制度」で解説しています。
③心理的サポートの確保
家族から援助を断られることは、経済的な問題だけでなく精神的な負担につながる場合があります。自分を責めたり孤独感を深めたりすることなく、適切な心理的サポートにつながることが、状況を整理するきっかけになることもあります。
自治体によっては、相談窓口や精神保健福祉センターなどで専門職に相談できる体制が整えられており、状況に応じて利用できる場合があります。また、同じような状況にある人同士で交流できる自助グループに参加することで、孤立感の軽減につながることもあります。
一人で抱え込まず、利用可能な支援や相談先について情報収集し、必要に応じて周囲の支援を活用することが大切です。
3.家族関係の修復に向けた実践的アプローチ

①段階的なコミュニケーションの再開
扶養照会をきっかけに関係が変化した家族との関係については、無理に急いで修復しようとする必要はありません。まずは相手の気持ちや状況を尊重しながら、時間をかけて関係を見直していくことが有効とされる場合があります。最初は短いメッセージや手紙など、負担の少ない方法から始め、相手のペースに合わせてコミュニケーションを再開していくことも一つの方法です。
支援現場では、段階的なやり取りを通じて関係が改善したケースもみられます。例えば、援助を断られた家族に対して、まず自分の気持ちや現状を簡潔に伝え、その後、無理のない頻度で連絡を続けることで、徐々に理解が深まったという事例もあります。
②誤解を解くための情報提供
家族が生活保護制度について十分に理解していない場合には、正確な情報を丁寧に伝えることが有効な場合があります。生活保護は生活の立て直しを支える制度であることや、扶養照会は制度運用の中で行われる手続きの一つであることなどを、落ち着いて説明することが大切です。
厚生労働省や自治体の公式資料を活用して客観的な情報を示すことで、感情的な対立を避けながら理解につながることがあります。また、今後の生活の見通しや目標を無理のない範囲で伝えることで、家族の不安がやわらぐ場合もあります。
③第三者の介入と調整
直接的なコミュニケーションが難しい場合には、信頼できる第三者の介入を検討することも有効な場合があります。共通の知人や親戚、状況によってはカウンセラーや相談員などに仲介を依頼することで、冷静に話し合える環境が整うこともあります。
支援現場や相談機関には、家族関係の調整に関する相談が寄せられることもあり、中立的な立場から状況を整理することで、双方の理解が進むケースもあります。第三者を介することで、直接は伝えにくい思いや状況を整理しながら共有できる可能性があります。
詳しくは「生活困窮の相談窓口とは?相談方法・支援内容・利用のポイントを徹底解説」で解説しています。
4.家族以外の支援ネットワーク構築

①地域コミュニティとのつながり
家族からの援助が得られない状況では、地域とのつながりが大きな支えになることがあります。町内会やボランティア団体、地域の活動などに参加することで、新たな人間関係が生まれるきっかけにもなるでしょう。
地域のコミュニティセンターでの活動に参加した方の中には、同世代の人との交流を通じて精神的な支えを感じたケースもみられます。また、困ったときに気軽に相談できる相手ができたことで、孤立感の軽減につながったという声もあります。
地域とのつながりは、経済的な支援にとどまらず、日常生活に安心感をもたらす心の支えとしても意味を持ちます。
②NPOや支援団体の活用
生活困窮者を支援するNPOや民間団体は、家族からの支援を得ることが難しい方にとって、心強い社会資源の一つです。食料支援や生活用品の提供、就労に関する相談など、さまざまな形でサポートを行っている団体があり、同じような状況にある人と交流できる場を設けているところもあります。
こうした団体は、物的な支援にとどまらず、人とのつながりや社会参加のきっかけを得られる場にもなります。継続的に関わることで、支援者や周囲の人との関係が少しずつ生まれ、生活の安心感や前向きな気持ちにつながることもあります。
詳しくは「路上生活から自立するための支援制度は?住居・就労・医療のサポートまとめ」で解説しています。
③専門機関との連携
社会福祉協議会や生活困窮者自立支援制度の相談窓口など、専門機関と連携することは有効な選択肢の一つです。これらの機関では、個別の状況に応じた支援の方向性について相談できるほか、各種制度の利用に関する案内やサポートを受けることができます。
主な相談先と支援内容は以下のとおりです。

状況に応じて複数の機関を併用することで、より適切な支援につながる可能性があります。
参考:全国社会福祉協議会
参考:厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」
参考:厚生労働省「地域包括支援センターについて」
5.長期的な自立に向けた計画づくり

①就労支援制度の活用
家族からの援助が得られない状況では、就労が可能な場合に、自立に向けた準備を進めることも選択肢の一つです。生活保護受給者の中には、自治体や関係機関を通じて就労支援を受けられる場合があり、職業訓練や就職活動のサポート、ハローワークと連携した支援につながることもあります。
こうした支援は、スキル習得や資格取得のきっかけになるだけでなく、生活リズムを整える助けになることもあります。就労に向けて動き出したいと考えている場合は、まず相談窓口に相談してみるとよいでしょう。
②住環境の安定化
家族との関係の変化により、住まいに関する不安を感じることもあります。現在の住居が生活状況に合っていない場合や、より安定した環境が必要とされる場合には、福祉事務所に相談しながら住環境の見直しを検討することが一つの選択肢となります。
転居については、住宅扶助の基準の範囲内で、必要性が認められた場合に検討されることがあります。具体的な条件や手続きについては、事前に福祉事務所へ相談することが重要です。
また、住環境の安定は気持ちの落ち着きにもつながることがあり、安心して過ごせる住まいがあることで、就労に向けた活動や社会参加に取り組みやすくなる場合もあります。
詳しくは「住宅扶助とは?生活保護で安心して住まいを確保するための支援制度」で解説しています。
③健康管理と医療サポート
家族から援助を断られたことによる精神的な負担は、身体面の不調として現れる場合もあります。定期的な体調確認を行い、必要に応じて医療機関への相談や受診を検討することが大切です。生活保護を受けている場合は、医療扶助により医療サービスを利用できるケースもあります。
特に、気分の落ち込みや強い不安が続く場合には、早めに医療機関や相談窓口につながることが望ましいとされています。
また、精神的な健康の維持は、自立に向けた取り組みを継続するうえでも重要な要素の一つです。医療ソーシャルワーカーや精神保健福祉士などの専門職と関わりながら支援を受けることで、生活の安定につながることもあります。
家族からの援助が得られない場合でも、生活保護制度や地域の支援を通じてサポートにつながる可能性があります。無理のない範囲で支援を活用しながら、少しずつ生活の安定を目指していくことが大切です。
6.心の整理と前向きな生活の構築

①感情の整理と受容
家族から援助を断られた経験は、怒りや悲しみ、失望などさまざまな感情を引き起こすことがあります。これらの感情を無理に抑え込まず、まずは自分の気持ちを認識し、受け止めていくことが大切です。感情日記をつけたり、信頼できる人に話を聞いてもらったりすることが、心の整理につながる場合もあります。
大切なのは、この状況が固定されたものではなく、時間の経過や環境の変化によって変わっていく可能性があるという視点を持つことです。現在の困難の中でも、少しずつ状況が整理され、新たな選択肢や人とのつながりが見えてくることもあります。
②新しい生活リズムの確立
家族との関係変化により生活パターンが変わった場合は、新しいリズムを確立することが有効な場合があります。規則正しい生活を心がけ、適度な運動や趣味の時間を取り入れることも一つの方法です。また、社会とのつながりを維持するため、定期的に外出する機会を作ることも大切です。
地域の図書館や公民館を利用したり、ボランティア活動に参加したりすることで、新しい出会いや学びの機会を得ることができます。こうした活動は比較的費用をかけずに始められるものも多く、社会との関わりを実感するきっかけとなります。
詳しくは「生活困窮者を支える支援制度の全貌|利用方法や種類、申請のポイントを解説」で解説しています。
③将来への希望と目標設定
現在の困難な状況の中では、将来に向けた希望や具体的な目標を持つことが支えになる場合があります。小さな目標から始め、達成できたら次の目標を考えるという方法は、無理なく前に進むための一つの手段です。
例えば、「今月は図書館に週2回通う」「来月からボランティア活動を始める準備をする」「半年後には職業訓練の参加を検討する」など、実現可能な目標を設定することで、生活に見通しを持ちやすくなることがあります。目標達成の積み重ねは、自信の回復や今後の生活を整えていくきっかけにもなります。
7.よくある質問

①家族から援助を断られた場合、生活保護費は減額されますか?
いいえ、家族から援助を断られたこと自体によって、生活保護費が減額されることは原則としてありません。扶養照会は制度運用上行われる手続きの一つですが、援助を強制するものではなく、家族が援助できないと回答した場合でも、それが直接受給額に影響するものではありません。
②扶養照会をきっかけに家族との関係が悪化しました。どうすればいいですか?
まずは無理に関係を修復しようとせず、時間をかけて状況を整理することが大切です。相手の気持ちや立場を踏まえながら、必要に応じて生活保護制度について正確な情報を伝えることで、誤解がやわらぐ場合もあります。直接のやり取りが難しい場合は、福祉事務所や専門機関に相談し、第三者の支援を受けることも有効です。
③家族以外で頼れる支援はどこで見つけられますか?
地域の社会福祉協議会や生活困窮者自立支援窓口、NPO団体などが主な相談先です。また、地域のコミュニティセンターや支援団体の活動に参加することで、新たなつながりや相談先を見つけられる場合もあります。
④精神的なストレスで体調を崩しています。医療費は心配ありませんか?
生活保護を受けている方は、原則として医療扶助により医療費の自己負担なく医療を受けられます。精神的なストレスによる不調がある場合は、無理をせず早めに相談することが大切です。受診にあたって不安がある場合は、まず福祉事務所に相談し、必要に応じて精神科や心療内科などの医療機関の受診を検討しましょう。
⑤将来的に自立したいのですが、どのような支援制度がありますか?
就労が可能な場合は、就労支援プログラムや職業訓練、ハローワークと連携した就職活動支援などを利用できることがあります。また、状況に応じて相談支援を受けながら、段階的に自立を目指していくこともできます。
⑥家族との関係修復にはどのくらい時間がかかりますか?
関係の改善にかかる時間は、状況によって大きく異なります。比較的早い段階で関係がやわらぐ場合もあれば、長い時間を要することもあります。焦らず、相手の気持ちやペースを尊重しながら、必要に応じて少しずつ関わりを持つことが大切です。
⑦住居に関する不安があります。転居は可能ですか?
現在の住居が不適切な場合や、より安定した住環境が必要と認められる場合には、転居を検討できることがあります。住宅扶助の範囲や転居費用の支給可否は個別に判断されるため、福祉事務所に相談しながら進めることが大切です。
8.まとめ

住まいに関する不安は、生活全体の安定に大きく影響します。安心して暮らせる環境を整えることは、今後の生活を立て直していくうえで重要な一歩となります。
この記事では、扶養照会で家族から援助を断られた時の対処法に関する具体的な解決策をご紹介しました。なお、現時点で生活保護をまだ受けておらず、生活保護受給の検討や前提となる住居の確保をしたい場合には、リライフネットへご相談ください。
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