生活保護制度は、日本の国民が生活に困窮した際に、最低限の生活を保障するために国が定めた制度です。さらに、生活保護から抜け出すための扶助や給付金も用意されています。今回は、生活保護を脱出したい人に向けた自立に役立つ扶助と制度を解説します。
1.生活保護を抜け出すには就労がポイント
生活保護から抜け出すためには、経済的な自立が必要になります。もっとも重要になるのが定期的な収入を得ることです。そのためには仕事に就く必要があります。さらにできれば正規雇用の方が経済的な安定度が高いので、より生活保護から抜け出しやすくなります。
定期的にハローワークに通い、仕事を見つけることを優先してください。非正規雇用の場合でもフルタイムで働けば、生活保護費以上の収入を得ることは難しくありませんので、フルタイムで働ける仕事を見つけましょう。
しかし、生活保護受給者の中には、母子家庭や体調面に問題がある方などフルタイムで働くのが難しい方も多いです。このような場合でも時間や体力の都合のつく限り、働いた方が良いです。無職の期間が長いと労働の感覚やコミュニケーションの取り方などに問題が出てしまうからです。そして時間や体力に余裕ができたら、フルタイムでの仕事に就くことで経済的に自立できます。
生活保護を抜け出すには、仕事による安定して生活基盤を築くことが大切です。そのためにはフルタイムで働ける仕事に就く必要があります。就職活動は精神的にもつらい面がありますが、それを乗り越えることで生活保護からも抜け出すことができます。
2.生活保護が抜けられない理由
生活保護を受給する期間が長くなるほど、抜けることができない、抜け道がないと考える人が増える傾向があります。その理由は大きく3つあります。
①貯金ができない
生活保護受給中は、生活を見直し節約しても貯金をすることができません。自立へ向けた貯金ができないため、自立を諦めてしまう人がいます。
しかし、貯金の目的が生活保護の趣旨に反しない場合には、貯金が認められます。自立へ向けた具体的な目的がある場合には、落ち着いて要点をメモなどにまとめ、ケースワーカーに相談しましょう。※1
②収入が増えると生活保護が減る
生活保護受給中は就労によって収入が増えると、収入認定された金額分、翌月の生活保護費が引き下げられます。そのため働いても生活費の合計が変わらないと考え、就労で生活保護をぬけだすことを諦める人も多くみられます。
③自立には生活保護以上の収入が必要
生活保護は、毎月の最低生活費として受給できる5つの扶助と、必要に応じて受給できる3つの扶助があり、合計8つの扶助で生活が守られています。※2
自立するには、8つの扶助で受給できる金額と税金や健康保険料などの支払いができる収入が必要になります。
1-毎月の生活保護費として受給できる扶助
- 生活扶助(食費・光熱費)
- 住宅扶助(家賃)
- 教育扶助(世帯に児童がいる場合)
- 介護扶助(世帯で介護がある場合)
- 医療扶助(医療費の平均月額)
5つの扶助に、世帯の人員構成や年齢などによって加算額があり、合計が最低生活費として受給できます。たとえば、東京都に住む50歳単身世帯の場合、13万円程度が目安です。※3
2-必要に応じて受給できる扶助
- 出産扶助(出産費用)
- 生業扶助(就労費用)
- 葬祭扶助(葬儀費用)
3-年金・税金・健康保険
生活保護を受給している場合、国民年金や住民税、NHKの受信料などが免除となっています。※4
また、生活保護受給中は医療扶助が受給できるため、国民健康保険も支払う必要がありません。
④生活保護から脱却する方法とは?
生活保護から脱却するには、毎月の生活費、年金、税金、健康保険、その他に家電の買い替えなどの急な出費にも対応できる収入が必要になります。
生活保護受給者は、生活保護費以上の収入が得られる仕事を探すことは困難だと考え、生活保護からの脱却を諦めてしまう傾向があります。
しかし、生活保護には自立への扶助として「生業扶助」があります。生業扶助の内容を知り活用して生活保護から抜け出しましょう。
※1参考文献:荘村明彦『生活保護手帳2023年度版』(中央法規出版、2023.10.30)p.245
※2出典:厚生労働省「生活保護制度」参照2024.05.09
※3出典:厚生労働省「 生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和5年10月)」参照:2024.05.10
※4出典:宮城県「生活保護世帯に対する減免措置について」参照2024.05.09
3.生活保護を脱却するための生業扶助
生業扶助では、収入を得るために必要な費用を受給できます。生業扶助には、就労に必要な資格習得にかかる費用や、就職決定時に購入する衣服やバッグなどの費用が該当します。
①生業費
生業費の基準額は、47,000円以内です。小規模の自営業などで必要な資金、資料、器具の購入などに、必要最低限の金額が支給されます。やむを得ない理由がある場合には、78,000円まで認定されます。認定には実態調査がありますが、生業費によって自立が助長されると認められれば、受給が可能です。※1
②技能修得費
技能修得費の基準額は、87,000円以内です。就労に役立つ技能や資格の修得にかかる費用が支給されます。技能習得の期間は、1年が限度と定められていますが、自立を助長すると認められる場合は2年を限度として支給されます。また、やむを得ない理由がある場合は、146,000円まで認定されます。※2
③技能修得の交通費
技能を修得する施設が遠く、徒歩では通えない場合には、交通費が技能修得の基準額とは別に実費で支給されます。
④自立支援プログラムとの連携
厚生労働省が生活保護世帯の自立を促進するために定めた自立支援プログラムが必要と認める場合には、技能修得費が年額で233,000円まで認定されます。※3
厚生労働省は、生活保護からの自立を支援する体制を整え、就職に有利なパソコンの基本操作や技能の修得などを積極的にサポートしています。大きな収入増加に繋がる技能の修得に、支援を活用しましょう。
⑤就職支度費
就職が決定した場合には、就職に必要な衣服、靴などの購入費用が支給されます。また、初任給を受け取るまでの期間の交通費も、やむを得ない理由がある場合に実費で支給されます。※4
※1参考文献:荘村明彦『生活保護手帳2023年度版』(中央法規出版2023.10.30)p.353
※2参考文献:荘村明彦『生活保護手帳2023年度版』(中央法規出版2023.10.30)p.354
※3厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」の一部改正について(通知)」p.5参照2024.06.01
※4参考文献:荘村明彦『生活保護手帳2023年度版』(中央法規出版2023.10.30)p.362
4.就労自立給付金とは?
就労自立給付金とは、生活保護を脱却すると受け取れる給付金です。※1
生活保護を抜けると税金や社会保険料の支払いが増えます。そのため生活保護受給者の自立直後の負担軽減を目的に就労自立給付金が創設されました。
①就労自立給付金の条件
- 6ヶ月以上の雇用見込みがあり、就労収入によって最低限度の生活の維持が可能な場合
- 生活保護受給者が事業を開始し、6ヶ月以上最低限度の生活を維持しつつ事業を継続できる見込みがある場合
- 就労収入が増加したことで、6ヶ月以上最低限度の生活の維持が可能と認められる場合
- 就労による収入がなく就労以外の収入で生活していた世帯が、就労したことで6ヶ月以上最低限度の生活が維持できると認められた場合※2
②就労自立給付金の金額
生活保護が不要になった月の、前の6ヶ月の収入が算定対象となります。各月の就労収入の10%に、世帯人員に応じた加算額があります。加算額は、単身世帯の場合は2万円、複数世帯では3万円です。
就労自立給付金は一括で支払われます。上限があり、単身世帯は10万円、複数世帯は15万円となっているため、算定金額が上限を超える場合は上限額までが支給されます。
※1出典:厚生労働省「生活保護法による就労自立給付金の支給について」参照:2024.05.09
※2出典:さいたま市「就労自立給付金について」参照:2024.05.10
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