「扶養義務」という言葉を耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。生活保護を受ける際には「扶養義務」というものを常に考えておかなければなりません。

しかし、「扶養義務」と意味をしっかりと理解できている方はそこまで多くないのが現状です。

「どういった義務なのか」「扶養義務の範囲はどこまであるのか」などを理解していないと、後々トラブルに巻き込まれてしまうことも考えられます。トラブルに巻き込まれないようにするためには「扶養義務」に関する知識をしっかりと身に付けておくことが重要です。

この記事では、「扶養義務」に関する知識を中心に解説していきます。ご自身やご家族が生活保護を受給することがある時には参考にしてみましょう。

1.扶養義務とは?

ここでは「扶養義務」について解説していきます。

①自力で生活することが困難な親族を経済的に援助する義務

扶養義務とは、自身の資産や労働だけでは生活を成立させることができない親族に対して、一定範囲内の近親者が仕送りや現物支給などで経済的な援助をする義務のことを指します。

扶養義務者(扶養義務を負っている人)は扶養権利者(扶養されるべき人)から扶養の請求をされた場合には家庭裁判所の判断によって、一定の経済的援助を行わなければならない義務を負っているのです。(民法第879条)

扶養に関する権利義務は、親族関係にのみ適用されるため、第三者に譲渡することはできないことを覚えておきましょう。

②生活保護よりも扶養義務者の扶養が優先される

生活保護とは、生活に困窮している人に対して、憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度です。自身の資産や労働だけでは生活をすることが難しいとされる場合に、所定の要件を満たしたうえで自治体に申請をすると、生活保護を受給することができます。

しかし、生活保護を申請するよりも先に扶養義務者に経済的な支援を求める必要があるのです。というのも生活保護法では「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」と定められています。

つまり、生活が苦しくなったことで生活保護を申請するよりも先に、扶養義務者に経済的な支援を求めるのが先ということになります。これは民法上、親族間で扶養を促すことによって社会保障費を削減する意図が含まれているということを覚えておきましょう。

基本的に生活保護を受ける前に扶養義務を履行してもらうことが前提にあります。扶養義務の履行が難しい場合や履行してもなお生活が難しい場合に、はじめて生活保護を利用できるようになるのです。

③扶養義務は「生活保持義務」と「生活扶助義務」に分けられる

扶養義務には2種類に分けられますが、ひとくくりに「扶養義務」と呼ばれることが多いです。実際には「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類に分けられ、それぞれ考え方が違う点に注意しましょう。

それぞれ解説していきます。

1-生活保持義務

生活保持義務とは、扶養義務者と同じ水準の生活を被扶養者に保障する義務を指します。生活保持義務を負担すべき人にたとえ余力がなくても、有している資力に応じて負担しなくてはならないということが特徴です。すなわち、その人に資力がないからといって免除される義務ではないことがポイントといえます。

生活保持義務を負っているのは「被扶養者の配偶者」や「未成年の子どもを養っている両親」です。

2-生活扶助義務

生活扶助義務とは、扶養義務者が通常の生活を送れることを前提とし、生活に支障のない範囲で被扶養者を扶養する義務となっています。この場合の援助は、被扶養者が最小限度の生活を送れる程度で問題ありません。

生活扶助義務を負っているのは「被扶養者の兄弟姉妹」や「成人している子どもの両親」などです。親族が経済的に困窮している場合、自分がどちらの扶養義務に該当するのかを確認して、適切な範囲内で支援をしていくことになります。

2.扶養義務の範囲と順位とは?

ここでは扶養義務の範囲はどこまでが対象か、扶養義務者が複数人いる場合の順位はどうなるのかを解説していきます。

①扶養義務の範囲

ここでは、誰が扶養義務の範囲内なのか解説していきます。

1-直系の血族および兄弟姉妹

扶養義務者は原則として、「直系血族」と「兄弟姉妹」です。直系血族は

  • 父母
  • 祖父母
  • 曾祖父母
  • 子ども
  • ひ孫

などが該当しています。

被扶養者との関係性によって、「生活保持義務」か「生活扶助義務」に扶養義務の性質が分けられるので注意が必要です。

一点注意点としては、兄弟姉妹が結婚して、戸籍から外れた場合にでも被扶養者との間で法律上の兄弟姉妹関係は継続して残ります。結婚をしたことによって扶養義務の存続にはなんら影響を与えないということを覚えておきましょう。

2-配偶者

夫婦間には、民法第752条によって相互協力扶助義務が定められおり、相互協力扶助義務の一環として扶養義務があると解されています。そのため、被扶養者の配偶者にも、扶養義務があるということを覚えておきましょう。

前述の通り、配偶者の扶養義務の性質は「生活保持義務」です。

3-特別な事情がある場合、三親等内の親族

「直系の血族および兄弟姉妹」「配偶者」の他に「特別な事情がある場合に三親等内の親族」も扶養義務の範囲として認められています。

たとえば、直系血族および兄弟姉妹が経済的に困窮しているケースでは、被扶養者が誰からも扶養を受けられないことも考えられます。こういった特別な事情がある場合には、家庭裁判所の審判によって、被扶養者の3親等内の親族にも扶養義務が課せられる場合があるということを覚えておきましょう。

家庭裁判所の審判によって扶養義務が課せられるのは

  • 叔父
  • 叔母
  • めい
  • おい

などが挙げられます。

この場合の扶養義務の性質は「生活扶助義務」です。

②扶養義務の順位

扶養義務者が複数人いる場合には、誰が扶養義務者になるのかという問題が出てきます。そういった問題を解決するのが「扶養義務の順位」という考え方です。

扶養義務の順位は、扶養義務者間の協議で決めることが原則とされています。しかし、協議では話がまとまらない場合や協議すらできないというケースも存在します。そういった場合、民法第878条によって家庭裁判所が扶養の順位を決めるのが一般的です。

3.扶養照会とは?

生活保護は生活に困窮していれば誰でも申請が可能ですが、申請をためらわせる問題として「扶養照会」というものが挙げられます。この扶養照会というものは、自治体から生活保護申請者の扶養義務者に対して「経済的な支援をすることができますか?」という旨を記載した照会状が届くことを指します。

生活保護を受けたいと思っている方の中には、「家族や親族にはなるべく知られたくない」と思っている方も多いです。照会状が届くことで家族や親族に知られてしまうため、生活保護の申請を躊躇してしまう方も多くなっています。

現在の日本では、親族に知られてしまう「扶養照会」が存在しているため、申請を検討している方の大きな壁となっているのです。

しかし、最近では扶養照会の見直しを求める声が上がっていますし、実際に署名活動も行われています。これが認められれば少しは生活保護のハードルが下がることとなりますので、さらに申請しやすくなるかもしれません。

4.扶養照会は絶対にされてしまうの?

現在の日本では、生活保護を受ける際に扶養照会というシステムが存在していますが、生活保護を受ける際の絶対的な要件ではなくなりつつあります

例えば

  • DVや虐待の疑いがある場合
  • 10年以上にわたる長期の音信不通
  • 扶養照会によって身の危険が生じる場合
  • 扶養が期待できない場合
  • 未成年や70歳以上の高齢者

などは扶養照会を行わないことが一般的です。

ただ、申請者に対してどの程度まで詳しく親族関係を聞き取るのか、紹介の対象から外す際の基準はどうするのかなど、自治体の判断に委ねている部分が大きくなっています。

5.扶養照会を断ることはできるの?

扶養照会が行われることに抵抗を感じるという方も多いです。扶養照会を断るためには断る際の理由と拒否する意思を明確にすることで、扶養照会が行われないようにすることができるようになりました。

扶養照会に抵抗を感じ、行われるべきではない事情がある場合には、生活保護の申請時にしっかりと説明できるよう状況をまとめておく必要があります。担当者から理解を得るためには、しっかりと準備しておくことが重要です。

単に、知られたくないからという自身の都合だけで扶養照会を拒否できないのが原則だということを覚えておきましょう。

まとめ
ただの後ろめたさだけでは扶養照会を拒否することは難しいですが、上記のようなDVに遭われた方などは居場所を通知することでかえって被害を助長してしまう恐れがあるため通知を控えることがあります。 生活保護申請時に相談員の方に説明できるよう、過去の経緯なども思い返してみましょう。

6.専門家に相談しよう

「自分自身で扶養照会がされないよう説明する自信がない」

「生活保護を申請する際、受給できるように進める方法がわからない」

といったことを感じている方も多いはずです。

そういった場合には専門家に頼むことがおすすめです。弁護士をはじめ、行政書士など、生活保護に精通している専門家に頼むことで、適切な支援を受けることができるでしょう。

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