車は贅沢品だから、生活保護を受けている人が持ってはいけない、という話をよく耳にします。実際、車を所有している人は原則として、生活保護を受けることができません。だったら他人名義の車は運転できるのか、と考える人もいるのではないでしょうか。

今回は生活保護と車の関係について、所有が認められる事例としてどのようなものがあるのか、他人名義の車を借りて運転することは認められるのかなど、様々な角度から詳しく解説します。

1.生活保護を受給していても車は持てる?

生活保護を受けている人は、車を持つことが原則として認められていません。

生活保護は社会保障における最後の砦として、活用できるものを全て活用しても生活に困窮する場合のみ、要件を満たした上で受けることができるものです。

活用できるもののひとつに資産の処分があり、処分して現金化しなければならない資産のひとつに車も含まれます。

しかし生活保護には「生活困窮者の支援」に加え「自立の促進」という側面もあるため、自立に必要と認められれば、保護を受けながら車の所有が認められることがあります。

具体的には国が定める以下の条件を満たせば、福祉事務所が許可した場合に限って車の所有が認められます。実際にはケースバイケースであることを頭に入れ、勝手に判断して所有しないように注意しましょう。

① 通勤や通学に利用する

公共交通機関が十分に整っておらず、通勤通学に支障をきたすと判断されれば、車の所有が認められる場合があります。障がいを持っている人が車を使わないと通勤通学できない、という場合も認められる可能性があります。

この理由で車の所有が認められる場合は、車の維持費を援助してもらえることが条件になります。

② 定期的な通院に利用する

定期通院をしている人が病状的に公共交通機関を利用しての通院が困難と判断されれば、車の所有が認められることもあります。

この場合は維持費の援助に加え、送迎をしてくれる身内がいないという条件もあります。また車の所有が認められなくとも、定期通院のために必要と認められれば、医療一時扶助としてバス代やタクシー代の支給を受けることができます。

③自営業のために利用する

自営業を営む人の中で特に車の利用が業務上必須な場合も、車の所有を認められる可能性があります。この場合は単に必要だからという点だけでなく、事業収入と維持費のバランスなど経営状況が総合的に勘案されます。

④ 公共交通機関の利用が不可能な場合

いわゆる「山間へき地」に住んでいて公共交通機関を使った移動が極めて困難な場合、車がない・または公共交通機関利用よりも車利用の費用が低額と判断されれば、車所有が認められるケースも例示されています。

ただし上記1や2も含め、解釈は自治体によって大きく異なります。中には最寄り駅から車で20分以上かかるような場所でも、所有を認めていない自治体もあります。生活保護の申請を検討している人は、事前に福祉事務所へ相談・確認を忘れずにしておきましょう。

⑤半年以内に生活保護から脱却する見込みがある

保護開始から短期間での自立が見込めると判断されれば、申請時に車を所有していても処分しなくてすむ場合があります。

これは生活保護の趣旨のひとつ「自立の促進」という観点にもとづくもので、処分させることがかえって自立の妨げになる場合は、車の所有が認められます。

2022年時点では、新型コロナ感染症による経済活動の影響で仕事や収入がなくなった人が生活保護を申請する場合、車の所有が認められるという特例があります。

通勤用として自動車を所有していれば、感染症の影響が収束した後に収入増加が見込まれる場合、処分をしなくとも保護を受けられるという取り扱いになっています。

なお所有を認められて保護を受け始めても、収入増加の見込みがなくなった場合は処分が必要になります。

2.生活保護を受けている人が車を持つ方法

生活保護を受けている人が車を所有するためには、前述した条件を満たした上で福祉事務所から許可を得る必要があります。許可を得るためにおさえておきたいポイントとしてどのようなものが考えられるか、いくつかご紹介します。

①車は所有だけでなく運転も認められない

生活保護を受けている人は、車の所有だけでなく運転することも原則認められていません。

これは万が一交通事故を起こし賠償責任が生じた場合、金銭や資産がなく賠償能力もないという考えが反映されています。そのため他人の車を借りて運転することや、レンタカーなどを利用することもNGと考えておくべきでしょう。

特に車を借りて運転した場合は車の所有者に賠償責任を負わせることもあり、迷惑をかけてしまいます。やむを得ない事情で運転をしなければならない人は、福祉事務所からの許可を得た上で自分の車を所有しましょう。

②車の所有を認めてもらうためには

車の所有を認めてもらうためには、自立に必要なためという点をしっかり説明し、理解を得ることが求められます。

生活困窮が失業など一時的な理由によるもので、就労先が見つかればすぐに生活保護から脱却可能という見通しがあれば、車所有が認められる可能性が高くなります。自分自身に対する決意表明にもなるので、申請する際は生活立て直しの意欲をはっきり伝えましょう。

また車を使用する必要性を理解してもらうことも、所有を認めてもらうためには重要なポイントになります。通勤・通学・事業用途といった使用目的を明確にするのはもちろんですが、その理由や事情を客観的に説明しなければなりません。

車の所有や運転が認められるのは、あくまで例外的な措置です。認めてもらうためは、「自立の促進」という生活保護の趣旨をきちんと理解しておきたいところです。

3.生活保護を受けている人が車を使うときの注意点

生活保護を受けながら車を所有・使用するのは例外的取り扱いのため、厳しい条件をクリアしなければなりません。それに加え、使用を認められた場合でも、通常よりも高いリスクを伴うことを理解しておく必要があります。

①損害賠償能力を常時念頭に置く

生活保護を受けている人が認められて車を所有する場合や運転する場合は、事故発生時の賠償能力を常に考えておくべきでしょう。

自動車保険の費用は必要経費として計上することが可能ですが、対人・対物保証部分に限定されます。車両保険は加入できず、車が故障・破損した場合は自費か援助で対応せざるを得ません。

そのため保護を受けている人は、通常より高いリスクにさらされていることを理解して安全運転を心がけましょう。

②認められた目的以外の運転は厳禁

生活を受けながら車の所有や使用が認められる理由は限られているため、認められた条件以外で車を利用するのは禁止されています。

例えば通勤手段として所有が認められる人は、買い物や通院のために車を運転してはいけません。

目的外使用が発覚した場合は福祉事務所から指導を受け、悪質な場合は車の処分指導や生活保護の停廃止の決定を受ける可能性もあるため、車の運転ができる機会は極めて少ないといえます。

4.車を買うために名義貸ししてもらうのはやめよう

生活保護を受けている人自身が車の所有を認めてもらえないからといって、他人の名義で車を所有する「名義貸し」は絶対にしてはいけません。

名義貸しは刑法第二百四十六条で規定される詐欺罪にあたるというのが、認められない理由のひとつになります。また刑事罰の対象になるだけでなく、福祉事務所が名義貸しの事実を把握した場合は生活保護の停廃止処分を受けることになります。

「ちょっと生活に不便だから」と軽い気持ちで名義貸しや他人の車の運転などをすると、生活を救済する生活保護そのものを受けられなくなります。この点を頭に入れ、法を守りながら自立する道を模索しましょう。

悪質な場合は停廃止だけでなく返還金や徴収金の対象になることもあるため、不正な手段を用いることは絶対にやめましょう!

5.まとめ

生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」を保証する制度ですが、申請時はあらゆる施策や資産を活用しなければならず、資産と判断される車は一部例外を除き所有が認められません。

ほかにも運転を禁止されたり多くの義務があったりするため、生活保護のルールはきちんと理解しておきたいところです。

リライフネットは生活保護制度を熟知した専門家が在籍しており、生活に困窮する人へ向け総合的なサポートを提供する体制が整っています。

中でも住まい確保に関するサポートに力を入れており、生活保護を受けている人が借りられる物件を提供することができます。加えて他の不動産業者とも連携をとり、車を所有する際必要な駐車場にも対応します。

生活に困窮する人、特に車を所有しながら生活保護を受けたい人は、是非一度リライフネットに相談してはいかがでしょうか。