生活保護を受けて最低生活が保障される母子家庭の場合、保護を受けるデメリットとしてどのような点があるのでしょうか?今回は生活保護について、子どもを育てる母子家庭の視点から詳しく解説します。

1.母子家庭で生活保護を受けている人はどのくらい?

生活保護を受けている世帯数や人数については、毎月厚生労働省が被保護者調査を行っており、統計データが公表されています。

被保護世帯は高齢者世帯や障害者・傷病者世帯などに分類され、母子世帯は「現に配偶者がいない65歳未満の女子と18歳未満のその子のみで構成されている世帯」と定義付けられています。そのため調査結果には、父子世帯が含まれていません。

2022年4月時点で生活保護を受けているのは、全体で163万7,490世帯、このうち母子世帯は6万7,445世帯です。2012年4月では11万2,124世帯、2017年4月では8万1,976世帯となっており、受給する世帯数は減少傾向にあります。

母子世帯の受給人数は公表されていませんが、最低でも母子2人以上で構成されているため、少なくとも13万人以上が受給しているとみられます。

なおこの後は、父子家庭も含め「母子家庭」という表現で統一します。

2.母子家庭で生活保護を受けられる条件

生活保護は日本国憲法第二十五条で保障される生存権を実現させる手段として、「健康で文化的な最低限度の生活」を送る支援を行う制度です。

具体的には国が定める最低生活費と収入を比較し、収入で補えない分を扶助費として支給するという方法をとっています。この条件は、母子家庭だからといって特別な条件が追加されるわけではありません。

最低生活費の額は世帯の人数や年齢構成、居住する地域によって異なりますが、東京23区内で生活する42歳の親・15歳と12歳の子どもという3人構成の母子家庭では約21万円が目安となります。

生活保護には生活費を支援する生活扶助に加え、義務教育を受けるための教育扶助・家賃を支援する住宅扶助・医療費を負担する医療扶助など8種類の扶助があります。世帯ごとの生活実態に合わせ、毎月もしくは一時的に支給されます。

保護を受ける前にはあらゆる手段を用いて生計を立てる努力をする必要があり、換金性のある資産は売却して生活費に充てなければなりません。

3.生活保護を母子家庭で受け取るメリット

生活保護は、必要な扶助を支給することで「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度です。母子世帯でもそのメリットは同様で、安心して子育てができる環境の中で親も子どもも自立を目指すことができます。

①収入や生活の安定が図れる

生活保護は扶助費の支給によって生活を経済的に支援する制度のため、安定した額の生活費を確保することができます。

そのメリットは母子家庭でも同じで、子どもの医療費も無料となります。子育て支援医療費助成は自治体によって自己負担が生じる場合がありますが、生活保護を受けている世帯では最終的に自己負担がゼロになります。

また児童扶養手当を受けている場合は受給額が収入認定されますが、最低生活費の算定にあたって母子加算がつくため、結果として一般的な世帯よりも高い生活費が保障されます。

②税金が免除される

生活保護を受けている世帯では、各種税金や国民年金保険料の免除も受けられます。制度により詳細は異なりますが、生活保護受給世帯は最も収入が少ない層として、基本的に納付が免除されます。

③子どもにかかる教育費の負担が軽くなる

生活保護を受けている母子家庭は、教育にかかる費用負担も軽減されます。

義務教育では「教育を受ける権利」を保障するため教育扶助の対象となり、教材費や給食費などが基準額の範囲内で支給されます。高等学校に進学する場合も生業扶助の高等学校就学費があり、教科書代などが支給されます。

2022年時点においては保護を受けながら大学へ進学することが認められていませんが、運用が憲法違反であるという判決が出たり世論の高まりがあったりという社会情勢から、今後の動向が注目されます。

4.生活保護を母子家庭で受け取るデメリット

生活保護を受けるデメリットは基本的に母子家庭の場合でも同様で、いずれもあらかじめ知っておきたい内容です。特に子育てという観点では、保護を受けない世帯よりも不自由が生じたり、事実上進路が限られたりというデメリットが大きいと言えるでしょう。

①子どもの将来に備えた貯蓄ができない

生活保護はあくまでも現在の生活を保障する制度であり、将来に向けた扶助はやむを得ないものや短期間での自立に直結するもの、例えば引っ越し費用や職業訓練の費用などに限られます。

教育扶助は公立学校の学費が基準となるため、私学への進学が想定されていません。また生活保護を受けながらの大学進学は認められておらず、進学する世帯員は自立した生計を営むこととなっています。

一般的な世帯であれば将来的な出費に備え貯蓄することが可能ですが、生活保護を受けている母子家庭の最低生活費は貯蓄に回すことが想定されていません。預貯金の額が高額になった場合は、資産扱いをされ処分指導を受けることもあります。

将来の学費を蓄える手段としては、進学時にまとまった保険金が受け取れる学資保険もあります。しかし保険金のある学資保険は資産とみなされるため、保護を受けながらの加入が認められていません

子どもが実際に大学や専門学校へ進学する場合は入学金や学費に加え、子ども自身の生活費も自分で工面する必要があります。しかも収入が多すぎると同一世帯と認定され、最悪の場合母子家庭全体が保護の停廃止処分を受ける可能性も生じます。

大学を含めた高等教育機関の進学率が8割を超える現代社会では、進学する子どもがいる場合の世帯認定方法が憲法違反である、という判決も出されています。厚生労働省は2022年時点で取り扱いを変更する予定はないとしていますが、今後は検討課題のひとつになるかもしれません。

②自動車の所有は原則認められない

生活保護を受給すると、資産扱いされる自動車の所有が認められなくなるという大きなデメリットがあります。

母子家庭の場合、保育園の送迎や子どもの受診など、車が欠かせないシーンも多くなります。

しかし自動車の所有については、通勤手段や仕事上欠かせない、短期間で生活保護から脱却できる見込みがある等の合理的な理由が必要で、最終的には福祉事務所の判断に委ねられます。

自動車の所有は母子世帯だから優遇されるということはなく、特に働きながら子育てをする母子家庭にとっては大きなデメリットになります。

③条件に合う物件を選びにくい

生活保護を受けている世帯は、賃貸物件を探すことが難しいというデメリットもあります。

母子家庭の場合は家賃が低額な公営住宅へ優先的に入居できるとされていますが、申込み多数の場合は抽選を経なければなりません。公営住宅に入居できない場合は必然的に民間の賃貸を借りることになり、公営住宅よりも高額な家賃がかかります。

生活保護を受けている人は住まいに関する扶助として住宅扶助を受けることが可能で、賃貸の家賃も一定の基準内で実費が支給されます。

世帯員が増えれば住宅扶助の基準も若干上がりますが、東京23区で生活する2人世帯で64,000円、3人世帯でも69,800円が上限となります。

家賃をクリアした物件が見つかっても、審査に通らなければ入居できません。オーナーによっては「生活保護を受けている」というだけで拒否される場合があるため、賃貸探しを探しにくいというデメリットが生じてしまいます。

④贅沢品の購入が限られる

生活保護を受けていると、贅沢品の購入が限られるというデメリットもあります。

生活保護法第六十条では、「被保護者は…生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、…生活の維持及び向上に努めなければならない」と生活上の義務について規定されています。

贅沢品の購入はこの趣旨に反するという理由から指導対象となる場合があり、換金性が認められるものは所有自体が禁止されます。もちろん、購入のためにローンなどの借金をすることも厳禁です。

またパチンコやギャンブルに浪費している場合は指導の対象になるだけでなく、子どもの健全育成という面でも決して好ましいとはいえません。

ここで挙げたデメリットには世帯分離やケースワーカーの判断で負担が軽減されるものもあるため、気になる方は問い合せて確認しましょう!

5.まとめ

生活保護は健康で文化的な最低限度の生活を送るための重要な手段で、特にひとりで子育てをする母子家庭にとって欠かせない制度ともいえます。

経済的な安定を得た上で自立を図れるという点は大きなメリットですが、生活保護を受けていることによるデメリットは他の人と同様です。特に預貯金や自動車保有の制限が高いハードルとなり、かえって自立への道を閉ざしてしまうことにもなりかねません。

生活困窮者のサポートを行っているリライフネットでは、生活保護の知識を有する専門家が最適な解決策を提案できます。また生活を安定させるため、生活保護を受けていても契約できる賃貸を紹介することが可能です。

生活保護を受けている母子家庭の人、また母子家庭の人がこれから保護の申請をする際は、一度リライフネットに連絡を入れてみましょう。