1.生活保護を受けながら同棲はできるのか?

同棲は「同じ家で一緒にくらすこと」のことをいい、一般的には交際中のカップルなど、婚姻関係に至っていない者同士が同居する場合を指します。法的な位置付けは曖昧な同棲ですが、要件を満たせば生活保護を受けながら同棲することは可能です。

生活保護法(以下「法」)第二条では、「すべて国民は…この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」とされており、要保護状態になった理由の如何を問いません。また居住地または現在地を所管する福祉事務所が生活保護を実施するため、同棲する住まいに生活の実態があれば住民票の有無も関係ありません。

つまり「同棲している」という事実だけで、保護の対象から外れることはありません

2.生活保護は「世帯ごと」の認定であることを理解する

法第十条で定める「世帯単位の原則」により、生活保護は世帯全体を対象とするため、同じ世帯のうちひとりだけを保護することはできません。生計が明らかに別であることを客観的に証明できなければ、同じところに住んでいる人は全て同一世帯とみなされます。

そのため同棲しているカップルの場合も、2人を同じ世帯として保護の要否判定や給付を実施します。詳細は改めて解説しますが、最低生活費の算定や収入認定は2人の合計で行われるということです。

3.同棲していて生活保護を受けるときの条件

生活保護は収入が最低生活費に満たない場合、不足する分を現金もしくは現物で支給するという制度です。この大原則は同棲している人も同じで、2人分の最低生活費と2人の収入を比較して要否判定を行います。

最低生活費は、国が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要と考える額で、食費や衣服費など個人で必要なⅠ類と、光熱水費など世帯全体の需要を満たすⅡ類で構成されます。

具体的な額は世帯員の年齢や人数、居住地などで基準が異なり、地域により1級地1から3級地2までの6区分があります。

算定方法は2種類あり、それぞれ一定の乗数をかけたものを比較して多い方が最低生活費となります。29歳と24歳の2人世帯の最低生活費は、東京23区及び埼玉県東松山市に住む場合、以下の例により算定されます。

東京23区内は級地区分が1級地1のため、

AよりBの方が多いため、最低生活費は12万3489円です。

埼玉県東松山市は3級地1のため、

AよりBの方が多いため、最低生活費は11万309円です。

なお実際には住宅扶助として、以下の額を上限として家賃相当分が加算されます。

東京23区内の場合 6万4000円

東松山市の場合 4万4000円

4.生活保護を受けながら同棲をする際に注意する点

同棲している人でも、生活保護を受けるにあたって注意したい点は変わりません。ただし生活保護を受けている人が同棲を始める場合は、事前に福祉事務所のケースワーカーに報告する必要があります。急に同棲が決まったなどやむを得ない事情がある場合でも、ケースワーカーに電話一本入れることはできるはずです。

一般論になりますが、同棲カップルの両方が会社勤めもアルバイトもしていないということはあまり考えられないのではないでしょうか。生活保護を受けている人には収入申告の義務があるため、同棲している人は特に気を付けましょう。

アルバイトは短期間で辞めることも考えられるので、収入の変動も含めこまめな報告を心がけたいところです。

また当事者はあまり考えたくないことですが、万が一同棲を解消して一人暮らしになった場合も、忘れずにケースワーカーに連絡を入れましょう。改めて要否判定を行い、生活保護が継続して受けられるかどうかが決まります。

5.同棲で生活保護を打ち切られるケースは?

同棲していることだけで生活保護を打ち切られるケースはありませんが、先に述べた申告義務を守らないと、打ち切りに直結することがあります。具体的に考えられるケースを、いくつか確認しておきましょう。

①同棲の事実を申告していない

生活保護では法第六十一条で届出の義務が定められており、生計の状況や居住地、世帯構成などが変わったときは福祉事務所に届け出をする必要があります。

状況によってはケースワーカーに対する口頭の報告で済むこともありますが、同棲開始は保護決定の重要な要素である世帯認定の変動にあたります。同棲していることを隠していると義務違反による指導対象となり、法第六十二条第三項にもとづき保護が打ち切られることもあります。

②同棲相手の収入を隠している

生活保護は、世帯収入の合計が最低生活費を上回ると保護を要しない状態となり、それが継続すると判断されると保護が廃止されます。

再三述べているように生活保護は世帯単位で実施されるので、同棲相手の収入状況も勘案されます。そのため同棲相手の収入も申告しなければなりませんが、先に触れたように、収入の届出義務も法第六十一条で定められています。

保護費に影響するからといって収入を隠すと、保護が打ち切られることがあるため、2人の収入は必ず申告しなければなりません。実際の収入がこれからの場合は、就労していることだけでもケースワーカーに報告しておきましょう。

③同棲相手が実家などからの支援を受けている

同棲の形は人それぞれなので、同棲相手がときどき実家に帰る場合もあるでしょう。その際親から小遣いをもらうことがあるかもしれませんが、原則として扶養義務者からの援助とみなされ、収入認定の対象となります

ケースワーカーの裁量で大目に見られることもあり得ますが、少なくとも保護を受けている人は小遣いをもらった旨必ず報告しなければなりません。

また実家からの支援が高額な場合は、最低生活費を上回ることもあるのではないでしょうか。この場合は裁量の余地がなく、違反をしなくても保護の停止または廃止になる点には注意が必要です。

④同棲相手が自動車を所有している

生活保護を受ける最大の条件としては、あらかじめ資産を処分して生活費に充てなければならないというものがあります。自動車も資産に含まれるとともに、保護受給者は運転自体も禁止されています。

パートナーの転入により同棲を始める場合は、同棲相手も資産の処分が必要となります。自動車を保有していれば処分対象となり、処分指導に従わないと保護が打ち切られます。隠していた場合はもっと処分が重くなり、法第七十八条により既に支給した保護費が徴収されることもあります。

そのため自動車を保有する人と同棲をする際は、自動車保有と保護受給のどちらかを選ばなければなりません。

⑤2人とも就職の意欲がない

生活保護はあくまで自立を支援する制度であり、世帯に応じた自立の形を模索する必要があります。

同棲カップルの多くは稼働年齢層と考えられるため、やむを得ず働けない人以外は就労が自立への最短ルートになります。また保護を受ける要件として、自分の能力や資産などあらゆるものを活用するというものがあります。

稼働年齢層の人は強い就労指導を受けることになり、保護開始前であれば俗に言う「水際作戦」の標的にされることもあり得ます。水際作戦そのものは禁止されていますが、稼働年齢層の人はそれだけ就労による自立が要求されているという事実を示しているとも言えるのではないでしょうか。

6.同棲するために引っ越す場合の費用は支給される?

生活保護を受けている人が同棲を始めるため引っ越す場合、その費用が扶助される要件としては「同棲が自立につながるかどうか」という点があります。同棲のため引っ越し費用が支給される具体例はケースバイケースとしかいえないので、不明な点はケースワーカーに相談する際確認しておきましょう。

同棲開始のための引っ越しが自立に必要と認められれば、敷金や礼金、火災保険料などが支給対象となり、家賃補助相当の3倍までの額が住宅一時扶助として給付されます。

そのほか引越業者に依頼する場合は、複数見積をとるという条件で引越費用の必要額が支給されることがあります。

7.収入や世帯状況が変わるときは必ず相談を!

同棲を始めるカップルは、2人の新生活に期待を踊らせていることが多いかもしれません。同棲を始めるきっかけによっては一時的にお金に困ることも考えられ、最低生活を保障する生活保護を受けることは可能です。一方生活保護にはは自立促進という目的もあるため、将来的には経済的な自立を考えておくべきでしょう。

同棲を理由に生活保護が受けられないということはありませんが、同棲開始という大きな出来事にエネルギーを使える多くの同棲カップルは、働ける能力も十分にあるのではないでしょうか。

また同棲は、一般的な世帯よりも状況の変化が大きいとも考えられます。同棲する保護受給者は日常のささいな変化が保護の要否に直結するので、収入や世帯の状況が変わりそうなときはケースワーカーへ相談する、ということを頭に入れておきましょう。

同棲は住居の移転を伴うことが多いので、住居の提供や生活保護サポートを得意とするリライフネットへの相談を考えるのもよいかもしれません。