近年、物価や家賃の高騰が続く中で、「住まいの確保」は多くの人にとって切実な課題となっています。特に単身者や高齢者、ひとり親世帯など、経済的に不安定な状況にある方にとっては、安定した住居の維持が生活再建の第一歩です。しかし、生活保護の住宅扶助や家賃補助の仕組みについては、誤解や不安を抱えている方も少なくありません。「本当に家賃は払わなくていいの?」「どんな物件でも住めるの?」といった疑問や、申請のハードルの高さを感じている方も多いでしょう。本記事では、最新の法改正や制度の動向も踏まえ、生活保護受給者の住まいに関する不安や疑問をわかりやすく解説します。

1.生活保護を受給すると家賃は無料?

生活保護を受給した場合、家賃は無料にはなりませんが、生活保護費から実費が支給されるため自己負担分はなくなります。

①生活保護とは

生活保護を簡単に説明すると、生活が一時的に困難になった国民に対して、最低限の生活を国が保障する制度です。

生活保護法第一条には、次のように定められています。

「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」1

1引用:e-GOV「生活保護法」第一条(参照2025.04.30)

また、生活保護法は、日本国憲法第二十五条の第一項「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」2

※2出典:厚生労働省「ナショナルミニマムに関する議論の参考資料 」P.2

という理念に基づき制定された法律です。

そのため生活保護法には、最低限度の生活を維持するための扶助が複数定められています。

生活が困窮した場合に生活保護を申請し、それらの扶助を利用することは、すべての国民の権利として認められています。

生活保護の申請は、全国どこでも申請可能で、それぞれお住いの地域の福祉事務所で受け付けています。申請から受給までの期間は通常2週間から1か月程度です。申請時には収入や資産の状況、家族構成などを詳しく調査されます。

なお、生活保護は「無差別平等の原則」に基づき、国籍・性別・年齢などを問わず、困窮の実態に応じて支給される仕組みです。世帯の所得や資産状況、働ける能力の有無などを踏まえて、「最低生活費を下回る分」が支給されるため、制度を利用すること自体に恥じる必要はありません。

生活保護の受給は一時的なものに限らず、断続的・長期的な支援を受けることも可能です。就労や年金受給などで収入が増えた場合は支給額が減額されますが、状況が再び悪化した場合は再申請や増額もできます。

②生活保護を受給すると家賃はどうなるのか

生活保護を受給すると、家賃は住宅扶助という厚生労働省が定める扶助に区分され、規定の範囲内で支給されます。

規定の範囲内の家賃であれば、全額支給されるため自身が負担する金額はありません

しかし、現在の家賃が、生活保護の住宅扶助基準となる金額よりも高い場合は、引っ越しが必要になる可能性が高いといえます。

基準を超えている分の差額を支払えば良いという簡単なものではなく、生活保護の基準と照らし合わせて、引っ越しの有無が判断されます。

つまり、「家賃が無料になる」のではなく、「条件を満たす限り家賃分が実費で支給される」というのが正確な理解です。

住宅扶助による家賃の支給方法は自治体によって変わります。現金として口座に支給された住宅扶助を、自身で家主に支払うケースと、福祉事務所から直接家主へ支払う「代理納付」があります。

「代理納付」とは、福祉事務所が住宅扶助費(家賃・敷金・礼金・住宅維持費など)を家主に直接送金する制度で、金銭管理に不安がある受給者にとっても安心して住居を維持できる仕組みです。

代理納付制度は多くの自治体で積極的な利用がされており、大家(家主)や不動産業者側も、生活保護受給者への入居に対する信頼性が高まり、物件選びの選択肢が広がるというメリットも生まれました。

さらに、住宅扶助の支給対象には、賃料だけでなく、敷金や礼金、更新料、火災保険料、修繕費といった「住まいに関わる一時的支出」も含まれる場合があります。ただし支給には申請が必要であり、事前に福祉事務所との相談が不可欠です。

ここに注意!
生活保護受給中の住宅の賃料は「無料」になるわけではなく、「住宅扶助が出ているから自己負担がない」ということをしっかり認識しておきましょう!
(※万が一生活保護費の返還金が発生した場合は住宅扶助のお金も返還対象になるので要注意!)

※3出典:令和6年生活保護法等の改正について(居住支援関係)

2.生活保護の条件と免除されるもの

①生活保護の条件

生活保護の条件については、厚生労働省が以下のように詳しく説明しています。(※2)

生活保護の条件の確認は、世帯単位で行われ、生活保護を受給する前に、世帯員全員が家や車、土地など利用できる資産を全て活用して生活することが前提とされています。

また、扶養義務者がいる場合は、生活保護よりも扶養義務者の扶養が優先されます

その上で、生活が困難な場合に生活保護の申請が可能になります。

最終的には世帯収入と厚生労働大臣が定める最低生活費を比較し、不足している部分に生活保護が適用されます。

生活保護の申請にあたっては、「他法他施策の活用の原則」が重視されており、年金、失業給付、児童扶養手当など、他の公的制度を活用したうえでなお生活が困難な場合に初めて申請が認められます。申請時には、これらの制度の利用状況や申請歴についても確認が行われるため、事前の情報整理が重要です。

生活保護の申請時には、必要書類(本人確認書類、通帳、収入証明書、家計簿など)の提出が求められます。書類不備や情報不足があると審査が長引くため、事前に福祉事務所で確認しておくとスムーズです。※4

※4出典:厚生労働省「生活保護制度」(参照2025.04.30)

②生活保護で免除されるもの

生活保護受給中は、自己負担がなく支払いが免除されるものが、厚生労働省によって、以下の8つの扶助として区分されています。(※5)

【生活扶助】

食費、被服費、水道光熱費など、日常生活に必要な費用が受けられます。

【住宅扶助】

家賃が基準の範囲内で実費で支給されます。

住宅の修繕費や引っ越しの初期費用など一時的な費用も基準の範囲内であれば支給されます。

【教育扶助】

基準の範囲内で義務教育の学用品費が支給されます。

【医療扶助】

医療費は、医療扶助が適用されるため、本人の窓口負担はありません。

【介護扶助】

介護サービスを利用する場合、介護扶助が適用され本人負担はありません。

【出産扶助】

基準の範囲内で実費が支給されます。

【生業扶助】

就職のための資格取得などが、基準の範囲内で支給されます。

【葬祭扶助】

基準の範囲内で埋葬費用などが実費で支給されます。

とくに近年では、「生業扶助」や「教育扶助」の活用が注目されており、就労支援や子どもの教育環境の維持が重視されています。高校進学時の制服代や教材費、通学交通費についても一部支給される場合があり、世帯全体の自立支援につながる運用が強化されています。

生活保護受給者は就労収入がある場合でも、一定額までは「就労控除」として収入認定から差し引かれる仕組みがあり、働く意欲を損なわないよう配慮されています。

※3出典:厚生労働省「生活保護制度」(参照2025.04.30)

③その他の免除

生活保護受給中は、8つの扶助以外にも免除になるものとして、厚生労働省が以下の内容を定めています。(※4)

生活保護世帯は非課税世帯となるため税金が免除されます。

【所得税・住民税】

生活保護受給中の世帯は、所得税や住民税が免除となります。

【国民健康保険】

生活保護受給中は、国民健康保険に加入できなくなります。

そのため保険料の支払い義務もなくなります。

国民健康保険は利用できませんが、医療扶助が適用されるため、医療費の窓口支払いはありません

さらに、住民税非課税世帯に付随する優遇措置(NHK受信料の免除、公共料金の減額、上下水道料金の割引など)が適用される地域もあります。これにより、生活保護の現物的な支援効果がさらに高まっています。

また、災害時などにおいても、生活保護世帯は一部の避難所支援や特例給付の対象とされやすく、生活の安全網としての役割が広がっています。

このように、生活保護制度は家賃や生活費の負担軽減だけでなく、医療や教育、就労支援、税金免除など多方面から生活の再建をサポートする仕組みが整っています。利用を迷っている方も、まずは相談から始めてみることをおすすめします。

※4出典:厚生労働省・援護局保護課「生活保護基準の見直しに伴いた制度に生じる影響について」P.16-17平成30年1月19日

3.生活保護でもらえる住宅扶助とは

生活保護受給中の家賃は、住宅扶助として支給されます。

家賃の具体的な支給額は、厚生労働省の定める住宅扶助の基準を元に計算します。

①住宅扶助とは

住宅扶助は、厚生労働省が「住宅扶助について」の中で、以下のように定義しています。

「住宅扶助は、困窮のために最低限度の生活を維持することのできない者に対して、家賃、間代、地代等や、補修費等住宅維 持費を給付するもの。」

引用: 厚生労働省社会・援護局保護課「住宅扶助について」p.1 平成25年11月22日

生活保護の基準は、「最低限度の生活を維持する」ための扶助であるため、支給される金額は規定の範囲内となります。

②住宅扶助の上限金額

具体的に、いくらの家賃までが支給されるのかは、厚生労働省が定める「級地」と呼ばれる土地の区分や世帯人数によって変わります。

住居のある土地が、どの級地に当たるのかは、厚生労働省の定める「級地区分」で分かります。

下記「級地区分」のリストでは、都道府県と市区町村名で、住居の級地を調べられます。

厚生労働省「級地区分」平成30年10月1日現在

厚生労働省は、平成25年に発表した「住宅扶助について」の中で、以下のような条件や住宅扶助の支給額を定めています。(※6)

住宅扶助では、家賃と住宅の補修費用などの維持費、転居時に必要になる敷金、礼金、火災保険料などの一時的な費用や契約更新料などが支給されます。

また、「特別基準上限額」が定められています。

特別基準上限額は、東京23区の単身世帯の場合、1級地の区分となるため53,700円です。

さらに、世帯人員の人数によって特別基準が適用されます。

世帯人員が6人以下では、限度額×1.3、7人以上では限度額×1.3×1.2を上限として、支給されます。

※6出典:厚生労働省 社会・援護局保護課「住宅扶助について」平成25年11月22日 資料4

住宅扶助の基準額や上限額は住む地域によっても異なるため、最寄りの福祉事務所へ確認してみましょう!

4.生活保護の家賃補助を受けるときの注意点

①家賃補助の範囲内の住居を探す

生活保護で支給される住宅扶助(家賃補助)は、厚生労働省が定める上限額までが対象です。

現在住んでいる家賃がこの基準を超えている場合、原則として基準内の物件への転居が必要となります。

ただし、やむを得ない事情がある場合は、差額を自己負担することで住み続けられるケースもありますが、長期的には転居が求められます。

物件探しのポイント

  • 生活保護受給中は、賃貸契約の審査が厳しくなる傾向があります。不動産会社や大家が「家賃の確実な支払い」を重視するためです。
  • 物件探しの際は、「生活保護受給予定・受給中」であること、「家賃の上限」などを事前に伝え、スムーズな契約を目指しましょう。

②家賃補助は実費が支給される

家賃補助は基準の範囲内で実費が支給されます。

例えば、東京23区の単身世帯の基準額は53,700円ですが、実際に入居した住居の家賃が49,000円の場合は、49,000円のみ支給されます。

共益費や管理費などは住宅扶助の対象外となる場合があるため、自己負担となることもあります。

③定期的な生活保護の見直し・制度改正の最新動向

生活保護は、定期的に見直しがされています。​2025年には、以下のような改定が実施されます。(※7)

1-生活扶助の見直し

特例加算の引き上げ:​2025年10月から、生活扶助に対する特例加算が1人あたり月額1,500円に引き上げられることが決まりました。​これは、物価高騰に対応するための措置であり、2025年度から2年間の臨時的・特例的な対応として実施されます。 ​

基準額の維持:​特例加算を行ってもなお、従前の基準額から減額となる世帯については、従前の基準額が保障されます。 ​

2-住宅扶助の見直し

3-居住支援の強化

2025年4月施行の改正生活困窮者自立支援法・生活保護法により、自治体の居住支援機能が法定化されました。入居時から退居時までの一貫した支援体制が強化され、単身高齢者や障害者など「住宅確保要配慮者」への支援が拡充されています。

2025年10月からは「居住サポート住宅」制度が創設され、居住支援法人等が見守りや福祉サービスへのつなぎを行う住宅への入居時も、住宅扶助の代理納付が原則適用されます。

※7 厚生労働省 「社会・援護局関係主管課長会議資料」2026年3月

④ 住宅扶助の代理納付の活用と注意点

  • 代理納付の原則化により、家賃滞納リスクが低減し、物件探しがしやすくなっています。
  • 代理納付の実施には、被保護者の同意や委任状は不要ですが、趣旨の説明と理解を得ることが求められています。

⑤ 民間賃貸住宅への入居支援の拡充

  • 2025年10月施行の改正住宅セーフティネット法により、家賃債務保証業者の認定制度や、居住支援法人による残置物処理支援など、単身高齢者や要配慮者の入居を後押しする仕組みが整備されます。
  • 居住支援法人と連携した物件探しや、入居後の生活支援も強化されています。

5.まとめ

今回は、生活保護受給中の家賃について解説しました。

生活保護受給中の家賃は、住宅扶助として支給されます。

家賃の上限は、住居のある場所(級地)と世帯人数によって変わります。

また、生活保護の家賃扶助には「代理納付」という方法があり、これは生活保護を受けている人の家賃(住宅扶助分)を、本人に代わって福祉事務所から直接支払う制度です。

通常、生活保護受給者は家賃相当額を本人の口座で受け取り、そこから自分で管理会社や大家に支払いますが、代理納付を行うことで家賃の滞納・使い込みを防いだり、オーナーや不動産会社側も確実に家賃が受け取れるため協力的になりやすいというメリットがあります。

現在の住居が、家賃補助の上限を越えてしまう場合は、引っ越しが必要になります。

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