生活保護の受給中、福祉事務所に収入などを申告せずに生活保護費を受給すると、不正受給となってしまう場合があります。悪意のない不正受給を行ってしまった場合、返還金として福祉事務所に返還する必要があります。

返還金は一括返還が原則ですが、やむを得ない事情がある場合に限り、例外的に分割での返還が可能な場合もあります。

この記事では生活保護の返還金について、返還金の分割での返還は可能かどうかなどについて解説します。

1.生活保護の返還金とは?

日本国憲法第25条の理念に基づき「生活保護法」というものがあり、健康で文化的な最低限度の生活を送れるよう経済的に困窮する人の支援を行う制度が、「生活保護」です。

生活保護とは、資産や能力などあらゆるものを活用してもなお生活に困窮してしまう者に対して、困窮の程度に応じて保護を実施して自立を助長するための制度です。

生活保護を受給すると医療扶助をはじめとする各種扶助に加えて、厚生労働省の定める最低生活費に対する不足分を生活保護費として支給されます。

この生活保護受給者に対して支給される生活保護費は、税金を原資として賄われています。

もしも十分な収入があるにも関わらずに生活保護費を受給した場合、税金が原資である生活保護費を不正受給したということになってしまいます。

不正受給した生活保護費は、徴収されます。

この中でも繰り返し不正受給をしていたり、不正受給が高額であるなど悪質であると判断されると、生活保護法の規定に基づき「徴収金」が不正受給をした者に対して請求されます。また、不正受給の悪質さによっては刑事告訴される場合もあります。

参考データ:(費用等の徴収)第七十八条

「生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)」

ただし、不正受給と言っても意図せず起こってしまうケースも考えられます。交通事故に遭い入院中に示談金や賠償金をもらったが、本人が入院中で収入があったことを申告できなかった。というように、やむを得ない事情があり申告が遅れてしまうことも考えられます。

後に福祉事務所に収入があったことを正直に申告をする、調査にも誠実に対応するなど悪意がなく不正受給を行ってしまったと判断された場合は、多く受給してしまった生活保護費を福祉事務所に返還するよう請求されます。

この福祉事務所に返還をする必要のある生活保護費のことを「返還金」といいます。

参考データ:(費用返還義務)第六十三条

「生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)」

生活保護法第63条には「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」とあります。

返還金は不正受給をしてしまった生活保護費が対象で、実際には請求書などで請求された額を支払う必要があります。

「徴収金」と「返還金」は請求書などに記載してある法律の条文を見ることで判別ができます。

  • 徴収金の場合、生活保護法第78条
  • 返還金の場合、生活保護法第63条

と、それぞれ見分けることができます。

2.生活保護の返還金を無視し続けるとどうなる?

最初の福祉事務所からの生活保護受給者への返還金の請求は、請求書などの形で通知が来ます。

まず、不正受給が発覚してから不正受給が悪質なものであるか、徴収金と返還金のどちらで請求を行うかの判断があります。そのため、発覚からどのくらいで通知が来るかは各自治体の福祉事務所によって異なります。

福祉事務所から生活保護受給者に返還金があることを知らせる通知や請求書が届くと、それらに記された納期限内に返還金を納付する必要があります。

それらの書面に記された納期限から半月から1ヶ月経っても返還金が納付されない場合、追加で督促状や催告書が送付されます。場合によっては督促手数料が加算されることもあります。

それでもなお返還金の納付を無視し続けると、福祉事務所から担当者が自宅を訪問して生活状況の確認や財産状況の確認などを行う可能性があります。

また、滞納が長期に渡ると福祉事務所は処分を検討し、裁判所に訴訟の提起を行う可能性もあります。訴訟に敗訴すると強制執行を行われ、財産の没収なども考えられます。

返還金の督促について
無視しても返還義務がなくなるわけではないので、状況が悪化する前に早めに対処するようにしましょう。

3.生活保護の返還金は分割での支払いでも可能か

返還金の納付は原則として一括返還です。

しかしお金が手元に残っていない場合、福祉事務所に事情を説明することで分割払いを認めてもらえる可能性もあります。

ただし分割払いの場合、返還金は毎月支給される生活保護費から一部を差し引く形になります。

生活保護費の実質的な支給額が減ることに加え、もし長期間返還金の納付が滞った場合、分割払いを取りやめて一括で返還するよう再度請求される可能性もあります。

一括・分割、いずれにしても返還金を納付する必要がある場合は忘れずにしっかりと行いましょう。

4.生活保護の返還金の請求があった場合の対処法

返還金の請求をされた場合、無視をし続けると裁判にまで発展し、最悪の場合財産の没収なども考えられます。そのため、返還金の請求は無視をせず速やかに返還金を納付しましょう。

返還金の納付は原則としては一括返還ですが、どうしても一括で返還できない理由がある場合は、その理由を正直に福祉事務所に伝え、分割での支払いが行えるか相談をしましょう。

生活保護法には返還の免除に関する決まりもありますが、住んでいる地域によって差があるため一概には言えません。また、返還金には時効による消滅があります。しかし、これらはあまり現実的とは言えません。

各自治体によって判断は異なりますが、福祉事務所側も返還金の免除や時効を迎えないように様々な方法を実行します。支払請求の訴訟を提起され時効が延長されたり、裁判に負けてしまうと強制執行により財産の没収なども考えられます。

返還金の請求をされた場合、無視をすることは最悪の選択になりかねません。速やかに返還を行うことができない場合は、福祉事務所にしっかりと相談をして、少しずつでも返還できるようにしましょう。

5.まとめ

今回は生活保護の返還金とは、返還金を無視し続けるとどうなるか、分割での支払いは可能か、返還金を要求された場合の対処法などについて解説しました。

不正受給とは悪意をもって生活保護費を受給した場合のみならず、悪意はないものの意図しないタイミングで収入を得てしまい、その申告が遅れたことによっても起こり得てしまいます。

何かしらの収入があった場合の申告は、生活保護受給者の義務でもあります。しかし、事故などのやむを得ない事情で申告できない場合もあると思います。

そういった場合でも後から福祉事務所に正直に申告するなど、嘘をつかず誠実に対応することが大切です。

返還金は福祉事務所に返還する必要のある生活保護費ですので、仮に返還金を要求された場合は無視をせず早めに納付しましょう。

無視をすると訴訟を提起されたり、最悪の場合裁判に負けて強制執行が行われ、財産が没収されることも考えられます。

もしどうしてもすぐに返還できない事情がある場合も福祉事務所に申し出て相談を行い、分割で納付できるかなど、少しずつでも返還できるようにしましょう。

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