一定の住所をもたずネットカフェで日々を過ごす、通称「ネットカフェ難民」を抜け出す手段として生活保護があります。本記事では、ネットカフェ難民が住居がないところから生活保護を申請し、定住先を確保して受給するまでの流れを説明します。

1.ネットカフェ生活でも生活保護は受給できる?

結論から言うと、ネットカフェ生活が続いている状態からでも生活保護を申請することはできます。

生活保護法第十四条に基づき、住居を持てない被保護者には住宅扶助が行われることになっています。つまり、申請者が住居および住所を持っていないことが想定にあるのです。よって、住所がないからといって生活保護申請ができないということは理屈としてはありません。

生活保護は日本国憲法第二十五条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」を充足させるための制度です。

よって、日本国籍(住所ではない)を持っていて、かつ最低限度の生活に達することが不可能な状況であれば生活保護を申請する権利があります。

参考:ナショナルミニマムに関する議論の参考資料

とはいえ、いきなり福祉事務所に飛び込んでもすんなり上手くいくとは限りません。生活保護の申請手続きはそれなりに複雑であり、保護を必要とする人にとって高い壁となってしまっているのが現状です。

それをクリアして申請が受理されたとすると、受給のためには住所を確定しなければいけません。

ネットカフェ難民の場合、家を持っていないため賃貸で住居を確保することになります。そのために必要な一時金は生活保護から支給されます。

住む地域の最低限の金額に家賃が制限されるという条件はつきますが、不動産仲介業者などを通して住む家を決めることができます。

なお、福祉事務所の判断によってはアパートやマンションではなく、無料低額宿泊所といういわゆる施設への入居を案内されることもありますので、必ずしもアパートやマンションにいきなり住める訳ではないことには注意が必要です。

このように、申請が通ってから住所を得ることができるので、ネットカフェ難民からでも生活保護の受給に至ることができます。

生活保護には「現在地保護」という原則があるため、住民票を置いている自治体から離れた地域に居てもその自治体で申請することができます。

2.ネットカフェ生活から生活保護を受給することで変わること

実際にネットカフェ難民としてネットカフェ中心で暮らしている方には、それを抜け出したらどういう生活になるかは考えにくいかもしれません。あるいは、生活保護を受けると自由がなくなるというイメージを持たれているかもしれません。

生活保護にデメリットがあるのは確かですが、特にネットカフェ難民を続ける意志がなければ、メリットの方が多いと考えられます。

①住む場所ができる

ネットカフェ難民が生活保護を受給して得られるものは住居および住所です。

住所さえ決まれば、これまで住所不定のためにできなかった契約などがある程度はできるようになります。

帰るべき家があれば生活のための荷物を持ち運ぶ必要がないので、荷物をなくして困ったり盗難にあったりする可能性も低くなります。

なお、この住居はアパートに限らず施設になる場合もあるのは前述の通りです。

②生活保護のメリット

生活保護でよく知られていることといえば、毎月一定の収入が得られることでしょう。支給される金額は国が定めた最低生活費と収入の差額で、毎月払う家賃もここに含まれます。最低生活費は世帯構成・年齢・住む場所によって異なります。住む地域における最低限の家賃が支給額に反映されます。

もうひとつの大きなメリットは医療費の負担がなくなるということです。

生活保護を必要とする人は保険料を支払っていない場合があるので、医療を受けるべき状態でも受けられないことが少なくありません。健康面の不安が軽減されることは、ネットカフェ難民から抜け出すために十分な意義があります。

そして併せて、就職に向けて行う訓練などにかかる費用を支給する制度もあります。

③生活保護のデメリット

生活保護の受給者となると、最低限度の生活のため以上の資産を所有することができなくなります。ネットカフェ難民の場合、持ち歩いているものは生活に必要なものであるはずなので、所有を認められない可能性は低いでしょう。もし貴金属やブランド物などがあれば、売却して生活費に変える必要があります。

ただし、生活保護を受給していても生活上必要のために貯蓄をすることは可能です。例えば、家電製品の故障時の買い替えに生活保護費から貯めたお金を充てるといったケースがあります。

また、現代の生活に必要不可欠と考えられる家電製品やスマートフォンなどを所持することも基本的に認められます。

自動車(オートバイを含む)の保有については、現状は認められない可能性が高いです。

なお、生活保護を受給するとクレジットカードは原則として使えなくなります。その理由は、クレジットカードを使用して借金をすることが資産の増加にあたるとみなされるためです。オンラインショップ等でクレジットカード決済が利用できないことは、現代の生活ではデメリットになります。

3.生活保護を受給するまでの基本的な流れ

生活保護の申請窓口は最寄りの福祉事務所です。すべての都道府県と市(特別区を含む)、また一部の町村に福祉事務所が設置されています。住所がない人の場合、普段の日中いる場所や寝泊りしているネットカフェの所在地を管轄する福祉事務所を最寄りとして構いません。

訪れる福祉事務所が決まったら、以降は次のように進みます。

①生活保護を申請する

まずは福祉事務所の窓口で生活保護の申請をしたい旨を伝えます。

その場で現在の状況について質問されますので、正直に伝えましょう。

例えば、住む家がなくネットカフェで寝泊りして生活していること、最低生活費に達するだけの収入がない、または働けないこと、処分できる財産がないこと、親族支援が得られないことなどです。

それで生活保護の申請に足る要件を満たしていると判断されると、申請書類が渡されます。

後は書類に必要事項を記入して福祉事務所に提出すれば申請は完了です。その後も福祉事務所とやり取りするために連絡手段を記入する必要があります。

②ケースワーカーの調査を受ける

申請から数日以内に、ケースワーカー(福祉事務所の職員)によって生活状況の調査を受けることになります。

普段の生活についての聞き取りが行われるので、ありのまま正直に話しましょう。ここで調査に協力的でないと申請が却下される可能性が高くなります。

その後、資産や親族の調査などが行われ、生活保護の受給可否が判断されます。

生活保護の申請が受理された場合も却下された場合も、書面による通知を受けます。もし却下された場合でも、一定期間は不服申し立てをする権利があります。この場合も民間の支援団体を利用することを考えてもよいでしょう。

③ 住む家を決める

住居探しは申請が受理されてから行うことになります。

具体的には不動産仲介業者を訪れて、家賃上限の範囲内で家を探し、見積書を出してもらいます。とはいえ、生活保護受給予定者が住居を探すことにはかなりの困難が伴います。ケースワーカーと相談しながら諦めずに住居探しを続ける必要があります。

この段階では入居に至るまでに時間がかかるため、それまでの間は無料低額宿泊施設への入居を案内される場合があります。

そうして得られた見積書をケースワーカーに提出することで、入居のための費用の支給手続きが行われ、賃貸契約を結ぶことができるようになります。

なお、繰り返しになりますが、必ずしもアパート生活が認められるわけではなく、施設への入所を案内される場合がありますので、念頭に置いておきましょう。

ここまでクリアすれば、晴れて自分の住む家や施設で生活保護を受給することができます。

リライフネットではネットカフェ生活でお困りの方に住居提供を行い、入居先を定めてから申請するサポートも行っていますので、お気軽にお問い合わせください!

4.ネットカフェ生活を続けると起こり得る問題

ネットカフェ難民は社会的に弱い立場にあり、様々な問題を抱えています。

①住所を持たないことによる社会的な不利益

住所がないことによって必要な書類が書けず、就職やその他様々な契約を結ぶことができません。これはネットカフェ難民から抜け出すためにも重要なポイントです。

②ネットカフェ生活から抜け出そうと思わなくなる

ネットカフェ難民の典型的な例は、生活に必要な荷物を常に持ち運び、昼は外を出歩き、夜はネットカフェで寝泊りする人です。あるいは一日中ネットカフェに籠っているかもしれません。自動車を持っていないので車中泊などはできず、その日ネットカフェに入れなければ野宿することも考えられます。

ネットカフェといえば、薄い壁に区切られたブースにパソコンが置かれているだけで、そこで生活するということはイメージしづらいかもしれません。しかし、ここ十数年の間にネットカフェは随分と進化し、多くの店でシャワーが利用でき、コインランドリーを備えている店も見かけるようになりました。さらには鍵付きの個室を備えるネットカフェも現れてきています。

このように、近年のネットカフェは遊戯施設というよりも簡易宿泊施設としての道を進んでいるように思われます。

ネットカフェを宿泊施設として考えた場合、料金は一般的な宿泊施設に比べて大幅に安くなります。多くの店で長時間滞在に有利なパック料金が設定されているので、夜中のみの滞在に利用すると1500~2500円ほどで宿泊できます。中には24時間パックを設定している店もあります。

仮に1カ月毎日ネットカフェに泊まったとしても7万円ほどで足りるということになります。これは都市部のアパートと競合する水準です。もちろん、ネットカフェには会員になる他の特別な契約はなく、敷金・礼金もありません。会員になるためには住所が必要ですが、後から住所を失っても更新が求められることは少ないです。

ネットカフェの料金の安さと賃貸契約の困難さにより、ネットカフェ難民がその状況を抜け出すインセンティブは働かなくなりがちです。

③犯罪に巻き込まれる

ネットカフェ難民は生活物資を常に持ち歩いていることから、盗難に遭遇する可能性が高くなります。ネットカフェの店内のブースは鍵をかけられないところが多いので、ブースを離れている間にお金や荷物を盗まれてしまうかもしれません。

他には、ネットカフェを女性がひとりで利用すると、ブースの中で犯罪に巻き込まれる可能性は男性よりも高いことが考えられます。この問題に対して女性専用エリアを設けている店もありますが、根本的な解決はネットカフェの構造上困難です。

④健康上の問題

ネットカフェ難民を続けていると定期的な健康診断を受ける機会がないため、健康問題が起きている場合でも見逃されやすいことが最大の問題といえます。

ネットカフェ自体に起因する問題としては、ブースが狭いために固まった姿勢をとりがちになることが考えられます。また、照明の光や周囲の雑音といった睡眠の質が悪化する条件もそろっています。

5.まとめ

最低限度の生活に達することができないために、生活保護を申請することは日本国民の権利です。

帰るべき家を持たないネットカフェ難民の状態からでも生活保護を申請することができます。

生活保護は最終手段であり、制約が多いのは確かです。しかし、やむなくネットカフェ生活を続けることからすればメリットの方が多いと考えられます。

ネットカフェ難民を抜け出して自立するためのステップとして、生活保護を利用することは十分建設的といえるでしょう。

リライフネットでは最短でご相談の翌日から入居可能な住居支援や、生活保護の申請に関する無料相談を行っています。

また、施設を経由せずに直接アパートやマンションに入居できるようサポートもしていますので、現状ネットカフェ難民で生活保護の申請を考えていらっしゃる方もぜひお気軽にご相談ください。